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FOOD NEWS vol.35 平野紗季子のMY STANDARD GOURMET 『食堂くしま』のミネストラ

FOOD NEWS
  • RESTAURANT _ 犬養裕美子
  • GIFT _ 真野知子
  • SWEETS _ chico
  • NEW STANDARD _ 平野紗季子
vol.35
平野紗季子のMY STANDARD GOURMET
『食堂くしま』のミネストラ
スープはランチ(¥1,300)で前菜パンとともに提供。内容は季節により変わる。上は白いんげんと白い野菜のミネストラ。「このスープに人参は入れません。赤が入らない、淡い色合いがきれいなので」。そうきっぱりの美意識。
スープはランチ(¥1,300)で前菜パンとともに提供。内容は季節により変わる。上は白いんげんと白い野菜のミネストラ。「このスープに人参は入れません。赤が入らない、淡い色合いがきれいなので」。そうきっぱりの美意識。
 
冬景色のような淡い色のスープ。冬の野菜と塩、オリーブオイル。たったそれだけで出来上がったミネストラはおどろくほど優しい旨味をもって、すぅっと体に馴染んでいく。擦ったしょうがは皮付き長いもの土っぽい香りとよく合った。れんこんの軽やかな歯ごたえが忘れられない。「おみそしるのような気持ちで作ってるんです」、店主のくしまけんじさんが言う。なんだか一口飲むたびに自分を取り戻すような確かさがある。

お姉さんの葉子さんときょうだいで営む、西荻窪の『食堂くしま』。イタリアンをベースにしているけれど、にんにくは使わないし、ボナセーラなかけ声も響かない。「素直に言えば、僕なりの洋風家庭料理かなあ」にんにくの代わりに玉ねぎをじっくり炒めて、ハーブやレモンの香りを添えて。よいお野菜をふんだんに使ったくしまさんのお料理は、なんとも澄みきっていて、お腹いっぱい満たされながら不思議なくらいに軽やかだ。

こんなにいい気持ちになれるのはお料理はもちろん、手入れのされたアンティーク家具や、光の差す大窓、古い映画音楽…お店にあるさりげない全部が素敵だから。それはどれもくしまさんのお気に入りで、自然と店の物語を作っている。テーブルにはシロツメクサのように可憐な花がいけてあって、こういう花、久しぶりに見たなあと思った。

ひらの・さきこ 1991年生まれ。食ブロガー。著書にエッセイ集『生まれた時からアルデンテ』(平凡社)。
 
食堂くしま食堂くしま
東京都杉並区西荻北5-26-17 
☎03・6913・9313 
12:00~15:00(14:30LO)、18:00~22:00(21:00LO) 月・火曜休 
※夜は前日までに要予約

くしまさんは絵を描くのも得意。銀座の月光荘画材店で働いていたこともあるのだ。
写真・清水奈緒 取材、文・平野紗季子