あー寒い寒い。そう思いながら店の引き戸をガラッと開けると、ふわっとおでんの湯気に包まれた。カウンター角のアツアツおでん鍋から、おだしの香りが満ちてくる。やられたなあって思う。心がパカーッと開いていくのがわかる。こうやって気を許せる店の存在が生活にちりばめられてさえいれば、それだけで健やかに生きていける気がする。

『しゃけスタンド』は代田橋の立ち飲み屋さんだ。鮭料理専門の深夜食堂『しゃけ小島』の姉妹店として、11月11日（鮭の日）にオープンした。カウンターに重心を預けながら、ぼんやり壁に貼られたお品書きを眺める。店のお姉さんがせっせとおでんのたねをこしらえている。野暮なエプロン姿がすごくかわいい。メニューで一際目をひくのは「カレー（辛口）」の文字。立ち飲み屋のカレー、いい予感しかしない。登場するのは昭和のおふくろ味ではなく、店主小林さんの熱烈カレー愛好っぷりが炸裂した鮭カレーと豆カレー。トマトやタマリンドの酸味をきゅっと効かせた鮭カレーは驚くほど切り身が合う。自分が切り身ならこの場所で成仏したいと思うほどの輝きだ。ライスに添えられた鮭皮は、パパドの役割でパリパリ食感を添えてくれる。なにもかもが楽しくて美味しい。こうしてふらっとしゃけスタンドに寄って近所の銭湯であったまって家に帰るなんて夜は、ただただ最高の人生だよなあと思った。