マガジンワールド

誰かのグッドミュージックに出合う。  From Editors 1 No. 892

From Editors 1

誰かのグッドミュージックに出合う。

 僕はエッセイが好きで、その理由は読めばそのエッセイストに会って話しているような気になれるからなんですが、そうやって好きになった文筆家・吉田義孝の一編「酒飲みの詭弁」に「意気投合こそ人生最大の快事である」という一文があります。

 音楽も、聴けばそのミュージシャンの一面を知ることができるという魅力がありますが、自分が好きな曲やアーティストを誰かと「いいよね!」なんて言って意気投合できることに、面白さがあると思っています。ジャンルの垣根もシーンもないほど多様化が進み、大量消費と大量生産の渦の中にある音楽においては、「好き」が重なり合うことよりも趣味が違っていることを認め合う場面の方が多かったりするのかもしれません。でも、だからこそ深く意気投合できたときの喜びは大きい。「他人が知らない音楽を見つける」ことも楽しいかもしれませんが、それを誰かに教えて一緒に「いいね!」と思えたとき、逆に知らない音楽を教えてもらって「よかったよ!」って一緒に話ができたとき。そういうときには心が弾みます。その音楽を好きになればなるほど。

 今回の音楽特集は裏テーマに「いい音楽の探し方」というのがありますが、そのためにテクニックがあるとか裏技があるというよりも、結局のところ、誰かの「好き」に出合うことが一番なのだと思います。なので、この特集には今のシーンがどうとか人気のアーティストがいなきゃとか、そういうことよりもスタッフたちにとってのグッドミュージックが幕の内弁当的に詰め込まれることになりました。トップの「まずはこのミュージシャン、聴いてみてよ!」は、趣味がコア過ぎて知らないアーティストばかりかもしれませんけど、「知らなかったけど、聴いたらよかったよ!」とか、「これは知ってる、いいよね!」って思ってもらえたり、『ポパイ』を読んだ誰かと誰かが「あのミュージシャン、いいよね!」なんて話してくれたりしたら、人生の快事だなーなんて思うし、アーティストたちも喜ぶと思います。ぜひ、spotifyにアップしたこの特集のプレイリストを聴きながら読んでほしいです。

 自分は詳しく知らないジャンルでしたが、一緒にこの特集を作った編集の相方が担当したアニソンのページで、田中公平さんや大石昌良さんのインタビューで「時間芸術」という話を読み、限られたページ数で表現する僕らの雑誌と同じだなと思い耳を澄ましてアニソンを聴くようになったし、東京の地べたから世界に届いたWOOL & THE PANTSの楽曲、Josh SafdiとOPNがシンセサイザーの鍵盤を1つ1つ叩いて音を探って作ったという『アンカット・ダイヤモンド』のサウンドトラックのことも、誰かと話したいです。お酒でも飲みながら。

榎本健太(本誌担当編集)
 
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自分が好きなアーティストで、インタビューが実現して嬉しかったKHRUANGBIN。マネージャーがzoomのリンクを渡しそびれてマークが参加できずにバカンスへ行ってしまったというアクシデントはありましたが(笑)、いい話が聞けてもっと聴きたくなったし、自宅で撮ったセルフィーを送ってくれるという、3人のプライベート味のある協力も嬉しかった! もちろん、マークもバカンスから帰ってきてパシャリ。校了ギリギリだったけど(笑)。ホントにいい人たちでした。
ポパイ No. 892

なにはともあれ、いい音楽が必要だ。

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ポパイ No. 892 —『なにはともあれ、いい音楽が必要だ。』

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