マガジンワールド

街の科学者になってみないか? From Editors 1 No. 879

From Editors 1

街の科学者になってみないか?

ノア・バームバック監督の映画『イカとクジラ』(2005年)で、主人公のウォルトが見に行く自然史博物館の“ダイオウイカとクジラの決闘”。映画のタイトルにもなるこの展示が、“行動展示”という手法で作られていることを、今回の取材を通して知りました。博物館ってやつは、見方や歩き方を知るとものすごく面白くなります。ただの観光スポットではありません。知識を深めてくれる先生でもあり、アイデアの源でもあり、壮大なエンターテイメント施設でもある。一方で、さまざまな謎を解き明かす研究機関でもあります。アメリカのスミソニアン協会なんて、ジョン・ウォーターズがヒゲを描くのに使っていた〈メイベリン〉のライナーまで集めているのですから、収集することへの情熱はちょっと僕らの想像を越えています。
博物館だけでなく、ものを見ることに長けた人たちへも、たくさん取材をさせてもらいました。何かにこだわる人というのは、決まって博識です。〈ポスタルコ〉のマイク・エーブルソンさんには巻頭でインタビューをさせていただきましたが、あらためてこの人は街の科学者だ。そう確信しました。そんなマイクさんもずっと博物館好き。京橋のお店の近くには、博物館の原初の姿をコンセプトにした〈インターメディアテク〉があります。解剖学者の養老孟司さんは、小さなゾウムシの観察を続けることで、地理学でも分かっていない日本の成り立ちの秘密にまで行き着いてしまっていることを、昆虫観察記として書き下ろしてくださいました。ものを見るとはこういうことだ! と言われているような気がする、ものすごい文章でしたのでぜひご一読いただきたい。
とりとめもなく書いてしまいましたが、好奇心と探究心を存分に刺激してくれるのが博物館だと思います。行けば行くほどものを見る目は鍛えられ、博識になっていきます。そのうち、あなたもまちの科学者の仲間入りです。お休みしていた世界中の博物館が再び動きはじめようとしている今、ガラスケースの中の展示物に目をこらして静かな興奮を味わってみてはいかがでしょうか?
まずはトレーニングのつもりで、ポパイの誌上博物館をどうぞ!

矢野一斗(本誌担当編集)
 
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ニューヨークの自然史博物館のは模型でしたが、ロンドン自然史博物館のシロナガスクジラは骨格標本です。エントランスに巨大な展示物があるのも、実は博物館が入念に計算してのこと。詳しくは特集内「世界の展示室から」をご参照ください。写真は昨年の夏のもの。
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同じくロンドン自然史博物館の宝石の展示。A24が配給したNetflix作品『アンカット・ダイアモンド』を観てから、鉱物も他人事ではなくなりました。


ポパイ No. 879

僕らの博物館。

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