好きな本屋を持つ、ということ。 From Editors 2 No. 845
From Editors 2
好きな本屋を持つ、ということ。
僕らはなぜ、本屋さんが好きなのだろう? そもそもなぜ、本屋さんがなくなったら“大変だ”と思うのか。もちろん肌感覚ではわかるのだけど、なんとなくうまく言葉にできずにいた中で、僕にとっての一つの答えを出してくれた人がいた。企画「僕の好きな本屋」でも文章を寄せてくれた、吉祥寺の出版社「夏葉社」の島田潤一郎さんだ。
島田さんは『本屋図鑑』って本を作ったり、いわば“本屋さんに関しての大先輩”なのだが、書いていただいた「サンブックス浜田山」という店についての原稿の中で、一番印象に残っているのが、
「本屋さんが好きということは、その町が好きであることと、ほとんどイコールだ。ぼくは実際、浜田山に引っ越すつもりでいた」(原稿より抜粋)
という一節だ。この言葉を見た瞬間に、僕の中にあったモヤモヤとした霧のようなものが晴れていった。そしてそれと同時に覚えたのは「うらやましい」という感覚だった。
引越しをしてしまいたいと思えるくらい好きな本屋さんがあるということが、すごくうらやましかったのだ。
「僕の好きな本屋」では、21人が自分の好きな本屋について語ってくれている。そこで思ったのは、本屋を語るということは自分の人生の一部を話すことになるということだ。
もちろん僕も好きな本屋がある。家の近くの小さな書店である。もしその店の話をするならば、僕が今住んでいる街に引っ越してきた日のことを思い出すことになる。その本屋さんはずっとそこにあった。家が近いから、というシンプルな理由ももちろんあるのだけれど、それ以上にその本屋さんには色々な思い出が詰まっている気がしている。
自分にとっての語りたい本屋さんをもつということの素晴らしさが伝わってほしい。そして今日も足を運んでほしい。このシンプルな思いが、一冊を作り終わったいま、一番強く思うことである(ちょっと真面目だけれど)。
岩渕大介(本誌担当編集)