特集の影に名著あり。3年半ぶりのニューヨーク特集は…。 From Editors 1 No. 853
From Editors 1
特集の影に名著あり。3年半ぶりのニューヨーク特集は…。
『ヨーロッパ退屈日記』という本があります。若かりし頃の伊丹十三が、1960年代にヨーロッパ諸国で実見して知ったことを誠心誠意書いたエッセイ集で、今から50年も前の本なのですが、これが何度読んでも古くないし、面白い。過去にも何度か紹介をしてきたこの本をメンターに、ニューヨークの街を歩いてみようというのが、今回の特集『ニューヨーク退屈日記』です。
前回、シティガイドを作ったのは2014年秋のこと。取材のためにマンハッタンとブルックリンを歩き回ったのはまだ暑さが残る時期でした。3年後、同様に歩き回ったのは2月。はい、一番寒い時期です(明け方はだいたい氷点下)。そんな寒いニューヨークで、新しいものばかりを追うのではなく、この街の成り立ちも含め、ちょっと立ち止まって考えてみよう、それを文章にまとめようと、今回はエッセイをメインとした読むガイドの形をとりました。
スピード感が桁違いのニューヨークが退屈だなんて思ったことはもちろんなく、むしろ「人生は退屈な日々の連続だ。だから時々、ニューヨークにでも行きたくなるのか?」と書いたのは編集長です。何かと忙しない4月ですが、読めば行きたくなり、ニューヨークという街の見方も少し変わる。手に取った人にとって、そんな特別なガイドになればいいなと思います。我々にとっての『ヨーロッパ退屈日記』がそうであったように。
われらが”おじさん”伊丹十三氏を紹介する企画も作りました。エッセイスト? 映画監督? 印象は人ぞれぞれだと思いますが、テレビマン、雑誌編集長他、あらゆる肩書で”本当のこと”を伝えようとした人でした。愛媛県松山市にある記念館も素敵な場所です。ぜひ訪れてみてください。
米山正樹(本誌担当編集)