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板角力 みやげもんコレクション313 BRUTUS No.908

みやげもんコレクション 313板角力

熊本県/八代市
文 / 川端正吾

板角力3,000円(桑原竹細工店☎09 65・38・2621)。

肥後国でその名を馳せた強豪力士の非業の死を偲ぶ。

開湯600年以上という歴史を持つ熊本県の日奈久(ひなぐ)温泉。こちらに伝わる郷土玩具の板角力(いたずもう)の誕生には、ある力士の悲劇の物語がありました。

江戸時代の天保年間に、肥後で名を馳せた嶋ケ崎宇太郎という力士がいました。彼は体も大きく、驚くほどの力の持ち主でありながら、技も多彩という、弱点が見当たらないほどの飛び抜けた強さを持っていました。その頃、江戸で活躍していた、小野川や雷電にも勝るとも劣らない実力がある、と評判になり、嶋ケ崎は江戸へ挑戦に出かけることになったのです。そんな嶋ケ崎の噂を聞きつけた江戸の相撲関係者は、江戸の人気力士が負けてしまうようなことになっては困ると、道中で必死に阻止しようとします。しかし、嶋ケ崎はこれに逆らい、強引に江戸へと向かったことから、最後は彼らの手によって毒殺されてしまったのです。

そんな嶋ケ崎を偲んで作られたのがこの板角力の玩具といわれています。薄い桐板で作られた2人の力士人形に竹串が通してあり、それを振ると、まるで相撲をとっているように動く、という玩具です。

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写真上/板角力3,000円(桑原竹細工店☎0965・38・2621)。写真中/日奈久は竹細工が有名で、竹の弁当箱や籠などが特産品。写真下/力士同士をつなぐ腕の部分に通してある竹ひごを振って遊ぶ。


 

掲載:BRUTUS#908 (2020年2月1日号)
値段・問い合わせ先などは、発売当時のものです。