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糸雛 みやげもんコレクション300 BRUTUS No.895

みやげもんコレクション 300糸雛

鹿児島県/鹿児島市
文 / 川端正吾

糸雛1組4,000円(鹿児島ブランドショップ☎099・225・6120)。

顔がわからない? だからこそ表情豊かに想像できる紙雛。

一見、頭がついていないように見えるこの雛人形は、「糸雛(いとびな)」と呼ばれる鹿児島県に伝わる伝統工芸品です。地元では「カンビナ(紙雛または神雛)」とも呼ばれます。和紙の着物の中には、1本の割竹(わりだけ)が入っており、その先には、麻糸が付けられています。この竹の部分を首、麻糸を髪の毛に見立てた人形です。表情は描かれておらず、その分、思い思いの表情を自分でイメージすることができます。頭は簡素でも、着物は豪華。和紙を幾重にも重ねて襟元を作り、正面にはきらびやかな「垂れ絵」が描かれます。

その始まりは江戸時代まで遡り、戦前は桃の節句の日に、その年に女の子が生まれた家へ贈る習慣がありました。毎年、節句になると、贈られた糸雛をズラリと並べて飾ったそうです。残念ながら今はこの習わしはなくなってしまいましたが、糸雛は昔と変わらない手法で作り続けられています。かつては50㎝を超える大きなものもあったそうですが、今は手のひらサイズの小さなものなども増え、しおりの代わりに使うなど、新しい形で、また地元の人々に愛されています。

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写真上/糸雛1組4,000円(鹿児島ブランドショップ☎099・225・6120)。写真中/サイズや描かれる垂れ絵は様々。写真下/作者の新山禮子さんは、ワークショップなども積極的に行っている。


 

掲載:BRUTUS#895 (2019年7月1日号)
値段・問い合わせ先などは、発売当時のものです。