みやげもんコレクション 191 一本足たたら
奈良県/吉野郡
文 / 川端正吾
大台ヶ原の峠道に潜む、一つ目の大足。
奈良と三重の県境に位置する大台ヶ原。日本有数の多雨な地域として知られ、とても緑が濃く、中でも大台ヶ原山は、豊かな生態系を保護するために山全体が国の特別天然記念物に指定されている名所です。そんな山には、恐ろしい「一本足たたら」という怪物の伝説が残っています。その昔、射場兵庫頭という猟の名手がいました。山中で彼の愛犬が突然けたたましく吠えだしたため、良い獲物でも見つけたか、と銃を撃つと、そこには熊笹を背負った巨大なイノシシ。恐ろしくなった兵庫頭は、お守りに持っていた「南無阿弥陀仏」と彫られた銃弾を撃ち込むと、大イノシシは叫び声とともに倒れました。しばらくすると、伯母峯峠に、一つ目のイノシシの顔に、体が一本足、という異様な姿の大イノシシの亡霊が現れ、通行人を食い荒らすようになります。すっかり困り果てた村人たちに頼まれた名僧の丹誠上人が、峠に経堂塚を作って経文を埋め、見事にこの亡霊を封じた、ということです。以来、怪物は峠を安全に旅するための神様として祀られ、この逸話を基にした木彫りのお守りが作られるようになりました。
写真大/「こけしタイプ」と呼ばれる大型の一本足たたら。比較的新しい種類。写真小/古くからある木の枝を使ったタイプ。ケヤキとヒノキがある。すべて松本工房☎07468・2・0006
掲載:BRUTUS#786 (2014年10月1日号)
値段・問い合わせ先などは、発売当時のものです。