みやげもんコレクション 241 アヤメ
栃木県/宇都宮市
文 / 川端正吾
宇都宮の初市を彩った、檜の削り花。
宇都宮市を代表する玩具といえば、以前ご紹介したこともある黄鮒(きぶな)。その昔、天然痘が大流行した際に、黄色の鮒を食べたところ人々がみるみる回復したという逸話から生まれた玩具で、毎年の初市の日に、宇都宮二荒山神社の参道の露店に黄鮒が並ぶのが風物詩でした。その際、一緒に売られて参道を彩り、かつては黄鮒と並ぶ宇都宮を代表する玩具として愛されていたのが、今回ご紹介する「アヤメ」です。
昔から「アヤメがよく咲く年は、水が豊かで米が豊作となる」といわれてきました。檜(ひのき)の経木(檜などを紙のように薄く削ったもの)に彩色し、アヤメを模したこの玩具は、五穀豊穣を祈り、各家の神棚に供えられたそうです。ところが次第にその習慣も廃れて作られなくなり、今から30年ほど前に廃絶してしまいます。それをさみしく思った地元の菓子店〈たまき〉のご主人が、アヤメの玩具が描かれた川上澄生の木版画などを手がかりに、見事に復元しました。〈たまき〉は、黄鮒を象(ひのき)った最中でも知られるお店で、最中とともに、この復元アヤメの販売を行っています。
写真上/アヤメ各870円(たまき☎028・624・1300)。写真中/宇都宮を代表する玩具、黄鮒。アイコン的な存在で様々なグッズにもなっている。写真下/黄鮒を模した「たまきの最中」5個入り500円。
掲載:BRUTUS#836 (2016年12月1日号)
値段・問い合わせ先などは、発売当時のものです。