アートの生まれる瞬間。 Editor’s Voice No.243
Editor’s Voice
アートの生まれる瞬間。
新型コロナウィルスの感染拡大、それにともなう緊急事態宣言の発令。特集「日本の現代アートまとめ。」は、その渦中で進んでいきました。この特集の取材や撮影は、年初にはスタートしていたこともあり取材前半には影響がなかったものの、予定されていた展覧会の延期など取材後半に大きな影響がありました。
人が多く集まる美術館が休館になることはこのような状況下においては不可避のことですが、制限がある中、どのような特集をつくるべきか、非常に苦慮しました。そんな中、何人かのアーティストを取材させて頂くうちに次第に気付いていったことがあります。
それは、「美術作家たちは、この瞬間、作品を生み出している」ということ。
思えば、世界で活躍している美術作家たちは、これまでも、その長い歴史の中に身を置きながら、自分自身や社会と向き合い葛藤しながら、作品を生んできました。
人々が感じている漠然とした不安や恐怖。この先の未来に掲げられる問いやテーマ。
作家たちは、それらを感じ取り掬い上げながら、いまこの瞬間、創りたい衝動に駆られている、そのように感じたのです。
明治神宮の「神宮の杜芸術祝祭」にて展示された名和晃平さんの《White Deer(meiji jingu)》も、世界の不安や人々の苦しみがある現在の状況から前向きな気持ちになれるようにと、空を見上げる鹿の姿を生み出したそうですが、これは新型コロナの影響があって生み出された作品ではありません。
名和さんの言葉を引用すると、「世の中の不安や苦しみは、普遍的にどの時代にも存在していて、それが偶然、世の中の出来事と重なる瞬間がある」ということなのかもしれませんが、長く残っていく作品は、このように時代に淘汰されない強いテーマを持っているのかもしれません。
さて、そんなわけで、この特集では、注目すべき現代アートの作品紹介はもちろんのこと作家たちの代表的作品が生まれた背景や作家自身の言葉に重きを置いて、取材を進めることにしました。(巻頭の6名のスター作家のインタビューだけで、実に4万字以上!)
「アートを鑑賞する」ことは、今は十分にはできないけれど、「アートを生み出す」ことは、今まさに行われようとしている。そのような視点で現代美術を鑑賞してみると、アートの楽しみ方が少し変わるかもしれません。いつかゆっくりアートが鑑賞できる日のための副読本として、この特集を手に取って頂けたらうれしいです。