マガジンワールド

裸火を前にすると、その人がわかる。 Editor’s Voice No.256

Editor’s Voice
裸火を前にすると、
その人がわかる。

Casa BRUTUS初となるキャンプを軸にした特集。
そのためのリサーチを重ねてわかったことは「キャンプの2大コンテンツ=料理と焚き火」ということです。
 
たしかに、キャンプ場に着いて無事にテントや椅子を設営したら、あとは調理をしたり、焚き火に薪をくべながらお酒を飲んで談笑するくらいしか、やることがありません(ちょっと極端ですが)。
 
いずれも、大事なのは「火」。
調理はカセットコンロやガスバーナーでさくっと済ませるのも手軽でいいですが、せっかく時間があるなら焚き火で、裸火で、調理を楽しみたい。
 
裸火。あまり聞きなれないこの言葉を教えてくれたのは、今回丹沢の山の家を取材させていただいたスタイリストの本間良二さん。
なぜ山暮らしを始めたいと思ったのか聞くと「裸火をいつでも見られる環境が欲しくて」とそのきっかけを教えてくれました。
本間さんのお家では、取材と称してファイヤーピットを囲んで焚き火をしながら食事をご馳走になったのですが、そのときに裸火を見ながら本間さんがぽつり。
 
「炎のコントロールの仕方を見ると、ソイツの心理状況がわかるんだよね。なんかいろいろ溜まってるやつほど、極端にぐわーっと燃やしたがるんだよ。だから家にきたヤツが『もっともっと』って炎を大きくしたがると、コイツ、いろいろ思うところあるんだなあって(笑)」。
 
そういえば、幡ヶ谷のアウトドアセレクトショップ〈Nicetime Mountaing Gallery〉のみなさんと深夜に湖畔のキャンプ場で焚き火を囲んでいるときも、誰かがふと放った言葉が呼び水となって……
 
「いやあ、それについては、実はずっと思うところがあって!」
 
なんて、普段なら適当に頷いて済ますようなシーンでも、いやに自分が饒舌になってしまう一幕もありました。

一方、〈SIMONE〉のアウトドアキュレーションチーム〈Wanderout〉とのキャンプでは、食事を終えて、そろそろ自分のテントに戻ろうかな、なんてタイミングでも、なんだか名残おしくて、会話が落ち着いた後も熾火になった炎をずっと眺めていたり……。
 
炎と水はずっと見ていられるとはよく言いますが、見ていられるだけじゃなくて、炎を前にしていると、話していられる、そして、黙っていられるんですね。
囲んだ仲間と視線を交わさずとも、視線や言葉を、焚き火に向けて、宙に放っていける、そして薪の爆ぜる音が、沈黙を心地いいものとして成立させてくれる。
 
結果、その人の飾らない部分が滲み出てくる。
 
今回8pにわたって焚き火台の選び方から薪の種類・組み方までを解説していただいた焚き火マイスターの猪野正哉さんも
 
「炎との向き合い方を見ていると、その人の対人関係のあり方がなんとなくわかります。薪をがちゃがちゃいじったり、やけに息を吹きかける人は、家庭や組織でも、なんでも自分でコントロールしたがる人が多かったりね」
 
と笑いながら話してくれました。
 
なるほど、わかるような……(笑)
 
炎についての話もそうですが、今回の特集で取材を受けてくださったみなさんが口にしてくれたことは、自然との向き合い方であると同時に、その人自身のふるまいの話でもあるな、と思いました。
 
テキストにおこすことができたのは、そのほんの一部かもしれませんが「アウトドア」と聞いて少し距離を感じてしまうような方にこそ、ぜひ手にとっていただきたい。自分が原稿を読みながら得た気づきのようなものが、届くといいなと思います。

 
特集担当編集/井手裕介
 
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〈Wanderout〉のみなさんと、焚き火を囲みながら夕食。キャンプで思い出に残るのは、デザインが素敵なテントを完璧に設営したときでも、薪をスマートに割ったときでもなく、こんなふうにリラックスしながら夜を更したひとときかもしれないな、と思います。


CASA BRUTUS No. 256

Chill Out in Nature 自然と過ごすスタイルブック

990円 — 2021.07.09電子版あり
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