マガジンワールド

編集会議は、思い出バトル。 Editor’s Voice No.245

Editor’s Voice
編集会議は、思い出バトル。

家で過ごす時間が長くなってきました。外出もしづらく、不安なことも多いこの夏、遠い日の夏休みやひんやりとした図書館の風景を思い出しながら、懐かしい「こどもの本」を手に取ってみるのはいかがでしょうか?

以前、うつわと暮らしについての取材で、陶芸家の中里花子さんのご自宅と工房にお伺いした際のこと。うつわと料理の美しさに心を奪われたのはいうまでもないのですが、書棚に並べられていた本の佇まいが、今も目に焼き付いています。

選書されていたのは、『星の王子さま』『モモ』『グリム童話』『不思議の国のアリス』などの子ども向けの本たち。大人向けの本のように、ページ数はけして多くないけれど、少ない言葉の中に織り込まれたメッセージや美しい挿絵の中に、これからの暮らしの豊かさのヒントが隠されているような、そんな気がしたのでした。

さて、『ぐりとぐら』が表紙の絵本の名作を特集したのは、今から7年前のことです。

 
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2013年の『絵本の名作100』の表紙。

前回の特集では、クラシックな名作絵本を中心にご紹介したため、今回は、幼年童話や児童文学の名作を取り入れつつ、絵本については近年誕生した名作や装丁の美しい作品を中心に100冊ご紹介しよう、ということになりました。

特集の方針の大枠が決まったその翌日のこと。編集長より、「表紙は『エルマーのぼうけん』がいいんじゃない?」と、早々と表紙のイメージ案が送られてきました。「◯周年とか節目の年というわけではないんだけれど、思い入れのある1冊だから」というのがその理由。大切な表紙、すんなり決まることもありますが、何度も検証を重ねることのほうが多い編集長が、「思い出の1冊だから」という、実にピュアな想いだけで、決まったこの表紙。

 
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こちらが決まった表紙デザイン。

個人的には、『モモ』『くまの子ウーフ』『星の王子さま』『ルドルフとイッパイアッテナ』などなど、思い入れのある本がやまほどあるため、あれはどうか、これはどうか、と提案したものの、編集長の心は1ミリも動くことがありませんでした(笑)。それくらい、こども時代に夢中になって読んだ本の存在や思い出は、大きいのでしょうね。

その後も、特集でどの作品を取り上げるか、スタッフの中で何度も打ち合わせを重ねてきたのですが、各々思い入れのある作品を主張し合い、あれがいいんじゃないか、いやいや、この作品のほうがいいと、大の大人たちがこども時代に読んだ本についてあーでもないこーでもないと、語り合いました。その様子は、実に平和で穏やかな議論で、大人の会議には決して見えなかっただろうなと、思います。

ところで、みなさんの思い出の1冊は、なんですか? 不安なことが多いこんな時代だからこそ、安らぎを与えてくれるような懐かしいこどもの本を、大人にこそ手に取ってもらいたいなと思います。

 
編集担当・奥村健一
 
CASA BRUTUS No. 245

大人も読みたいこどもの本100

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