マガジンワールド

家具に向けられた“レアグルーヴ”的視点。 Editor’s Voice No.248

Editor’s Voice
家具に向けられた“レアグルーヴ”的視点。

まず、下の家具の「形」を、じっくり見てみてください。

 
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ジャスパー・モリソンの《グローボールS2》と、マイケル・アナスタシアデスの《ストリングライト》。90年代と2010年代の家具。「コンテンポラリー」の章で紹介。photo_Mitsuo Suma(LICHT)
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ヘーリット・トーマス・リートフェルトの《ジグザグ》とドナルド・ジャッドの《オープンサイドチェア84》。30年代と80年代の家具。「ミニマリズム」の章で紹介。photo_Mitsuo Suma(LICHT)
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内田繁の《セプテンバー》と《岡崎の椅子》。70年代と90年代の家具。「ポストモダン」の章で紹介。photo_Mitsuo Suma(LICHT)
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ヴィコ・マジストレッティの《アトーロ》とジオ・ポンティの《ビリア》。70年代と、30年代の家具。「イタリアンモダン」の章で紹介。photo_Mitsuo Suma(LICHT)

丸・半円・三角・四角という、幾何学模様を組み合わせただけのような家具。
これらは、誌面の中でデザインギャラリー〈LICHT〉の須摩光央さんが「コンテンポラリー」「ミニマリズム」「ポストモダン」「イタリアンモダン」と設定したキーワードに沿って、それぞれ選んだものです。
 
今回は企画としてキーワードを設定し、それに沿った形で家具を紹介しましたが、須摩さんが面白いのは、そうした時代が背負ったデザインスタイルを越境した、不思議な共通項をスッと抜き取って等価に並べたり、意図的に異化効果を生み出す感覚です。
 
それはまるで、知られざるレコードを掘っては破綻なくつないでいくDJのような所業。
 
初めてデザインギャラリーの〈LICHT〉を訪れた時の衝撃が忘れられません。優れたDJのミックスを通して、知っているはずの曲が新鮮に聞こえたり、気づかなかった魅力にハッとしたりすることがあるような、そんな感覚を家具の世界で感じました。
 
すでに評価が固まっている名作家具でなく、まだ誰も声を上げて評価をしていない家具を自らのミックスの中に落とし込むことで、その家具に付加価値や新たな文脈を与える。これはまさに、現代の感性で“レアグルーヴ”を発掘するDJそのもの。
 
一方で須摩さんは、「現代の家具」をきちんと評価することの面白さにも言及します。
 
「自分の目でこれが欲しい頃と思うものを見つけてほしいんです。有名なデザイナーが50年前に作ったものの価値はわかりやすい。その情報に価値を感じるのが、現在は一般的かもしれません。でも僕が力を入れたいのは、現代のデザイナーが作ったまだ価値の定まらないものを、現代の人が買うというサイクル。現代アートを選ぶように、自分の目と価値観を信じてものを買う、そのおもしろさを知ってもらいたい」
 
巨匠デザイナーのものだから、ヴィンテージだから、有名店で扱っているから……。そういうバイアスを全てとっぱらって、その上で自分の好きな「形」を見つける楽しさを知ると、インテリアはもっと自由になる。そんなことを、須摩さんには教えてもらったような気がします。
 
この特集で紹介している家具は1920年代から2020年の家具まで、実に270アイテム。コロナ以降、家で過ごす時間が長くなってきた中で、なにかひとつでも自分の好きな家具のヒントが見つかったら、担当者として幸いです。

 
特集担当編集/井手裕介
 
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