越後妻有だからこそできるアート体験。 Editor’s Voice No.257
Editor’s Voice
越後妻有だからこそできるアート体験。
2019年の瀬戸内国際芸術祭を紹介した「アートを巡る旅」特集に続き、残念ながら大地の芸術祭は延期となりましたが、この夏、多くに新作が加わった越後妻有の「アートを巡る」特集を作りました。前回と同じく、平手友梨奈さんに参加してもらい、越後妻有の新旧さまざまなアート作品をじっくり巡りました。
今回の特集で紹介できなかった新作もありますが、コロナ禍という困難な状況においても、国内外の作家たちとコミュニケーションを続け、この夏に合わせて新たな作品の完成に漕ぎ着けた大地の芸術祭のスタッフの皆さんには、本当に頭の下がる思いです。棚田などの美しい田園風景の中を巡っていると、現在のような閉塞的な状況にこそ、自然と一体となった開放的なアート体験を越後妻有ですることは、いま求められている時間なのではないかと思います。
越後妻有の人気作品のひとつ、《最後の教室》を作ったクリスチャン・ボルタンスキーの訃報が、特集の制作中に伝わりました。前回の「アートを巡る旅」でも、新国立美術館の展覧会でのボルタンスキーの取材をさせていただいたので、予想外の知らせでした。今回は《最後の教室》を撮影しましたが、豪雪地帯の廃校となった小学校を舞台に、いなくなった人たち、人間の不在を強く感じさせる空間です。また、心臓音が響くインスタレーションも生と死を感じさせ、屋外の開放的な作品とは真逆ですが、コロナ禍を予言するような、また越後妻有特有の雪深い地域の小学校跡を使ったこの場所でしか体験できない作品です。
六本木の東京ミッドタウン・ホールで開催中の展覧会「北斎づくし」も紹介しています。会場デザインを担当したのは建築家の田根剛さんで、北斎の作品に新たな魅力を加えるダイナミックなインスタレーションです。会場最後にあるのは、田根さんもお気に入りの「70歳以前に描いた絵は取るに足らないもので、73歳にしてようやく動物や昆虫、魚介の骨格、植物の成り立ちを理解できた。80歳でますます成長し……」という内容の北斎の言葉です。80歳に向けて、さらに成長しようとした北斎の情熱に勇気をもらうことができます。
ボルタンスキーは残念ながらまだ76歳でした。アフターコロナの世界を、ボルタンスキーならどう表現したのか。それを観ることができないのは、本当に残念です。死を意識させる作品を多く作ってきたボルタンスキーさんですが、2年前の撮影の時には、とても温かくて優しい人柄に触れることができました。誌面でも掲載しましたが、ユーモアあふれるチャーミングな行動で現場を和ませてくれたことを思い出します。心よりご冥福をお祈りいたします。