マガジンワールド

みやげもんコレクション 223 のぼり猿

宮崎県/延岡市
文 / 川端正吾

のぼり猿(小)2,100円。のぼりざる製作所「松本」☎0982・32・5235。

子供たちを疫病から救ったからくり猿。

延岡は、夏目漱石が『坊っちゃん』の中で「猿と人間が半々に住んでいるところ」と紹介している町。そんな、まだ猿が身近にいた時代、田畑の作物を食い荒らされて困り果てた人々が、こぞって野猿たちを退治しました。おかげでその年はとても豊作になりましたが、子供の疫病が大流行してしまいます。そこで、かつて延岡藩の藩主・有馬公が合戦の折、馬印に猿を用いて戦ったところ見事勝利したという話にあやかり、のぼり猿を作り庭先に立てて供養したところ、不思議と疫病が治まったそうです。以来、豊作を願い、節句になると毎年のぼり猿を立てるようになり、烏帽子(えぼし)をかぶり、背中には御幣(ごへい)と鼓を背負った、めでたい三番叟(さんばそう)の姿に仕立てられるようになりました。次第に家の中で祝う節句飾りへと形を変え、子供の立身出世や無病息災、そして家の安泰を願いましたが、この風習も今は廃れてしまいました。現在は、郷土玩具としてその姿のみが伝わっています。

玩具は、風を受け、張り子の猿が揺れると、猿がゆらゆらと登りだすからくり仕掛けになっています。

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写真上/のぼり猿(小)2,100円。のぼりざる製作所「松本」☎0982・32・5235。写真中/延岡の土産物店では頻繁に見かける定番。大小2サイズあり。写真下/マンホールの蓋にものぼり猿。まさに町の顔。


 

掲載:BRUTUS#818 (2016年3月1日号)
値段・問い合わせ先などは、発売当時のものです。