みやげもんコレクション 236 昇竜
埼玉県/秩父市
文 / 川端正吾
秩父の空に高く舞い上がる農民ロケット。
埼玉県秩父市にある椋(むく)神社で、行われる例大祭では、ある珍しいものが奉納されます。それが「農民ロケット」とも呼ばれる巨大な手作りロケット「龍勢」。日本武尊(やまとたけるのみこと)の鉾(ほこ)から出た光を尊び、始められたのが起源とされ、戦国時代に打ち上げ式の狼煙(のろし)となり、それが今の龍勢になったと伝えられています。
さだかではありませんが椋神社では、天正3(1575)年に龍勢を打ち上げたという社伝が残されており、遅くとも江戸時代にはこの風習が行われていたそうです。
その構造はというと、約18mの竹の矢軸に、松材をくりぬいた火薬筒を取り付けた、ちょうど巨大なロケット花火のようなもの。これを丸太で組んだ矢倉から打ち上げます。上空に昇り詰めた瞬間に落下傘を開き、矢軸がふわりと浮いたらめでたく成功。地域に27の流派があり、それぞれが独自の仕掛け花火を施し、美しさも競います。
神社では、そんな龍勢をモチーフにした「昇龍」も授与されています。龍勢がまるで破魔矢のようにミニチュア化されており、商売や運気の“上がる”縁起物として愛されています。
写真上/昇龍1,000円。神社のほか、道の駅である〈龍勢会館〉(☎0494・77・0333)でも販売されている。写真中・下/毎年10月第2日曜日に行われる例大祭の様子。轟音とともに一気に上空へ。
掲載:BRUTUS#831 (2016年9月15日号)
値段・問い合わせ先などは、発売当時のものです。