マガジンワールド

From Editors No. 10 フロム エディターズ 1

From Editors 1

「初めて見たけど、これが欲しかった」という買い物。

今回は、オンラインショッピングを否定する特集ではありません、念のため。むしろ、物を買うのに今やネットはとても便利で、これなしの生活に戻ることはできない、という時代でしょう。ただしその一方で、実店舗に足を運び、その品揃えを見て、何かを手に取り、買うというその行為の楽しさ、面白さは変わらずにある。そういう楽しさを上手に体験させてくれるいい店はちゃんとある。もう一度その辺を見直してみたら、というのが企画の出発点でした。

「そこでしかできない体験」を提供するという意味で、面白かった店は例えば京都〈ラダー〉です。鍋やザルなどの調理道具や食器などを中心に日用品を売っているのですが、どれも手に取って試せる。客が実際に水回りで使ってみるためのシンクまであり、商品はすべて店主が先に試したコメント付きで並べられています。

その説明に「無骨な見た目通り丈夫でしっかり閉じられるキッチンクリップ。類似品は数あれど「ちゃんと閉じてる」という安心感はちょっと他では得られません。SS/S/M/Lサイズ」などとあれば、やっぱりつい手に取ってみたくなる。実際にそこらの袋の口を閉じてみればパチっと締まって「ああ、なるほど」となり、気づけばサイズ違いで幾つか買うことになりました。

「偶然性に身を曝す」とまでいうと大げさかもしれませんが、こうやって思いもよらなかったものに「出会ってしまう楽しさ」は、実店舗らしい感覚です。見ていてこれに近い体験というと、いい書店で目的なく棚を見る楽しさにも通じるものがあるかもしれません。本をよく知る書店員が作っている棚は、常に変動しながらもそれぞれに「文脈」があり、単体では気づかない意外な取り合わせが、何かの気づきを与えてくれたりします。買い物という行為には、そういう予想外の発見も含めていいのかもしれません。

読者の皆さんが、この一冊に出ているいろいろな店にふらりと行ってみて、たとえば「これを買いに来たわけじゃないし、そもそも初めて見たけどでも買いたいなあ」とか「あ、自分が欲しかったのはこれだったのか」というような出会いがもしあれば、編集部として嬉しいです。どうかお試しあれ。

(本誌編集部 渡辺泰介)
 
京都〈ラダー〉店内の片隅には「訳ありsaleコーナー」が。これ、売れ残りとか端数の処分ではなく、店主が実際に置くかどうかを決めるために「試してみた」上で、残念ながら不合格だったサンプルだそう。徹底してます。
京都〈ラダー〉店内の片隅には「訳ありsaleコーナー」が。これ、売れ残りとか端数の処分ではなく、店主が実際に置くかどうかを決めるために「試してみた」上で、残念ながら不合格だったサンプルだそう。徹底してます。


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いいものに出会える、いい店。

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