From Editors No. 13 フロム エディターズ 1
From Editors 1
コーヒーは、普通においしくなってきました。
産地や生産者が明記されたコーヒー豆は、ひとつの象徴かもしれません。コーヒーの銘柄と言ってもかつては「ブラジル」とか「キリマンジャロ」のように国名や、せいぜい大まかなエリア名のことでした。その中のどこで、誰が作ったのかも分からないものがほとんどだったわけです。しかし、ここ数年で産地へのフォーカスは一気に進み、ブラジルならどの州の何という地域の、どの農園で育てられた豆かまで明記して売られている、という光景もだいぶ増えています。
ワインなら、レストランでただ「フランス1杯どうですか」という勧め方はまあ普通しません。「最初にこのアルザスの白はいかがでしょう」とか「ローヌなんですけどこの◯◯◯という造り手はちょっと変わってて…」という具合に、大まかでもエリア名、あるいは造り手名、その個性や特徴などを説明してサーブするのは当たり前。そもそもフランスワインなら「フランス」という国名やその生産者名はラベルに明記され、それはフランスのワイン法によって規定されているという前提もあります。
生産者の顔が見えるとは、その“ストーリーも込みで売られる”ということ。野菜や肉や魚介も、ワインやジャムやハムのような加工品も、作り手や、扱う店のポリシーで選ぶ、という人が増えてきた時代。それも含めて選択肢が増え、選ぶ楽しさが広がることで、別にマニアでなくても自分で好きな豆を選べる。それをもっと気軽に自分で淹れてもいいことです。別に「こだわり」などに囚われず、普通に、日々の生活に新しい一杯をプラスしてみる。そんな「おいしいコーヒーがある生活」は、ぐっと身近になってきた気がします。この一冊が何かのきっかけになりますように。