From Editors No. 18 フロム エディターズ 1
From Editors 1
ものを作る現場それ自体も面白い、という話。
たとえば、ビールを飲むグラス。普通のコップはもちろんジョッキやワイングラスでもいい。いやガラスに限らず木や金属、陶器のカップまでいろいろある中で、自分がなんとなく使いたいものなら、これ。そういうものと出合えたら、ビールを飲む時間はまた少しだけ楽しくなるのでしょう(あとグラスで味が変わるという話、あれ本当だと思います)。
そのグラスを最初に見たのは数年前のこと。一見、普通のパイントグラスで、ロンドン式のパブなどで見る側面に少し膨らみがついた、あのちょっとごついビール用のやつです。でもなんだか違う。薄手だしちょっと小ぶりで、かすかに緊張感があり、妙に心に残るグラスでした。それと同じく猿山修さんがデザインし、昨秋に新しく発表されたのが“BAR”というグラスシリーズ。ウイスキー、カルヴァドスなど飲む酒によって変えた形がいい。展示会で現物を手にした時、その場にいたデザイナーご本人に聞いてしまいました。「これ作ってるところ、取材できませんか?」
その工房は、大阪の和泉にある〈フレスコ〉といいます。伝統的な技法で1点ずつ作られる様子は本誌に譲るとして、親方と助手のペアが無言のまま、本体や脚部などパーツを作り、繋げ、仕上げていくその光景は、単純に見ていて格好よく、楽しい。「こういう繊細かつ小さいのは本当に難しいんです」と工房代表・辻野剛さんは苦笑いしていましたが、まあ見れば納得です。これはぜひ一つ買いたいと申し出たのですが「既に注文が山積みなので納品優先」というお答え。その場は断念したものの、これを書きつつやっぱりどうにも飲み、いや使ってみたい…。
渡辺泰介(本誌編集部)