フィクションに教えてもらったこと。 From Editors No. 82
From Editors 1
フィクションに教えてもらったこと。
人生の指針となるような、台詞に出会ったことはありますか。これから先、ずっと胸にしまっておきたい、と思える台詞に。
−“人生は、他者だ”。
映画『永い言い訳』の終盤、小説家である主人公がノートに書き留める言葉。これが私に、生き方を教えてくれた台詞です。バス事故で妻が亡くなったとき、愛人と過ごしていた。長年連れ添った妻が突然いなくなったのに、ちっとも悲しくない、悲しめない。そんな自分が醜く、情けない。どこで間違ったのだろうか。そうやって思い悩んでいた男が、時を経て自分や周りの人々と向き合っていくなかでようやく辿り着いたであろう、たった7文字の答え。そのあと彼はこう続けます。自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放してはいけない。みくびったり、おとしめたりしてはいけない、と。他人をふと傷つけてしまいそうになるとき、私はいつもこの言葉を思い出します。
物語、とりわけフィクションには本当に不思議な力がある、と常々思います。本当は存在しないはずの世界に、人生における大切ななにかが散りばめられている。皆さんも一度は、その“大切な何か”を見つけたことがあるのではないでしょうか。今回、私が担当したのは『物語に学ぶ、素敵な生き方』という企画。生き方を教えてくれた“台詞”を聞いてみたり、小説、漫画、ドラマ、映画、の4ジャンルから、作品をセレクトし、登場人物の生き方を紹介したり。物語に魅せられたことのある人には、ぜひ読んでほしいです。
原田妙(本誌編集部)