マガジンワールド


From Editors No. 173 フロム エディターズ

特集内容

THE GAUDí PILGRIMAGE
井上雄彦とガウディ巡礼

ル・コルビュジエ、フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエ、丹下健三、安藤忠雄……、カーサ ブルータスは創刊以来たくさんの巨匠建築家を特集してきました。ところが、実はまだ本格的にスポットを当てていない、遺された最後の大物がいたのです。それが、アントニ・ガウディです。そこで、この度は7月から始まる『ガウディ展』を控えた漫画家・井上雄彦さんと一緒に、ガウディ建築の謎に迫ってみました。

まず、ガウディが遺した傑作集合住宅〈カサ・ミラ〉にアトリエを構えた井上さんを訪ねて、そして聞いてみました。なぜ、ガウディを描くのですか? もちろん井上さんが描いたガウディも収録しています。

ハイライトはなんと言っても〈サグラダ・ファミリア〉。1882年の着工から約130年が経った今も建設が続く未完の教会、ガウディはなぜこの壮大なプロジェクトを手掛けることになったのか、ガウディの死後はどのように建設を進めているのか、日本のゼネコンが参加したらどうなるのか、果たしていつ完成するのか……など、数々の謎を解き明かしていきます。

世界遺産に登録されている傑作群〈カサ・ミラ〉〈カサ・バトリョ〉〈グエル邸〉〈グエル公園〉〈コロニア・グエル教会〉は、井上さんの視点、建築ヒストリー、そして図解という3本柱で解説。一見複雑に見えるガウディ建築を丁寧に捉えていきます。

その他、現代の表現者たちが語る影響、ル・コルビュジエとの関係、初期傑作選、デザイン、建築のエッセンスまで、ありとあらゆる内容を網羅。これ1冊で難しいとされるガウディ建築が手に取るようにわかる(はず!?)、まさに完全保存版、満を持しての大特集です。


 

Editor’s Voice

ガウディ研究の第一人者、
メダルデさんを知っていますか?
おそらく日本で最も名前を知られている建築家・ガウディの、おそらく日本で全く知られていない研究の第一人者をご紹介します。その方はバルセロナ在住の考古学者・マヌエル・メダルデさん。

そもそも日本では、ガウディは建築家というより〈サグラダ・ファミリア〉という奇怪な建築を遺した芸術家、というイメージが強いと思います。実際はものすごく合理的な建築をつくった”早すぎたモダニズム建築家”だったのですが、そういった事実はなかなか浸透しません。ただ、それも無理はないかなという状況が長く続きます。というのは、ガウディが遺したスケッチや模型や蔵書など資料となるほとんどは、1936年のスペイン内戦で焼き払われてしまい、研究自体がなかなか進まなかったからです。

そんな状況を一変させたのが、このメダルデさん。1986年に〈サグラダ・ファミリア〉の原型とも言われる未完の大作〈コロニア・グエル〉でガウディが遺した大量の領収書を発見し、そこから数々の新事実を読み解いていったのです。例えば、素材のサンプルを工業大学に送って実験データを取っていた実証主義的な側面、設計プロセスに初めて写真を取り入れた新進主義的な側面、梱包材をリサイクルして教会のベンチを製作する環境配慮的な側面、そして〈コロニア・グエル教会〉の奥に続く階段を4回も作り直しさせた完璧主義者の側面……と、これまでの常識を覆すさまざまなことがわかってきました。

さらにメダルデさんに言わせれば、〈コロニア・グエル教会〉の模型室はなんとディズニー(!)の撮影所にヒントを得てつくられたのだとか。パトロンであったエウゼビ・グエルを通じて世界の見聞をいち早く仕入れ、それを設計に役立てていたのだそうです。

そんなガウディ研究に大きな貢献を果たすメダルデさん、実は最初から考古学者だったのではなく、もともとはバルセロナ市役所に勤める公務員でした。ところが、あるとき〈コロニア・グエル教会〉に見るも無惨な改築を施した建築家が現れたため、教会を守るべく、公務員という安定した職を投げ打って裁判で争ったのだとか。

〈サグラダ・ファミリア〉に人生を捧げたガウディのごとく、〈コロニア・グエル〉に人生を投じたメダルデさん。Googleで「メダルデ」と検索しても全くといっていいほど引っかからなかったので、これを機に少しでも知られますように。

〈コロニア・グエル教会〉を案内してくれたメダルデさん。 photo_Tetsuya Ito
〈コロニア・グエル教会〉を案内してくれたメダルデさん。
photo_Tetsuya Ito

メダルデさんが発見したガウディのサイン入り請求書。
メダルデさんが発見したガウディのサイン入り請求書。


特集担当編集/西尾洋一