言葉が生まれる前にあるものは。 From Editors No. 88
From Editors 1
言葉が生まれる前にあるものは。
2019年の4月号に続き、本誌での言葉特集は2度目です。歌詞、インタビュー、お笑い、卒業スピーチ、エッセイなど、様々なジャンルから「心が動く言葉」を集めた充実の一冊が出来ました。
2度の特集ともに担当し、いくつもの言葉に出合い、それらが生まれたシーンやいきさつを知りました。そしていま思うことは、美しい言葉を生むのは文章を作るテクニックではなく、豊かな感受性だ、ということ。単なる記号を超えた“人の心を打つ言葉”に出合ったとき、それを紡いだ人の心のひだの深さに、自分が共感していることを自覚するようになりました。驚きや喜び、哀しみ、切迫さ……言葉そのものの背景にある心の機微を文章が媒介し、受け取る人の感情を揺さぶるのです。
そう考えると、言葉を紡ぐために大切なのは、物事をじっくり見つめて、ひとつひとつのことに赤ん坊のように感動することなのではないか、と。その心の動きを丁寧に掬い上げて文章にしたものを「心のこもった言葉」というのかもしれません。雑誌を編むものとしてそんな姿勢でありたいと思いつつ、まずは出来上がった本に並ぶ言葉に改めて触れて、素直に噛みしめることから始めます。みなさんにもぜひ本誌を通して、精神的に豊かな体験をしていただけたら幸いです。
松﨑彬人(本誌編集部)