マガジンワールド

From Editors No. 761 フロム エディターズ

From Editors 1

「あたらしいふるさと」っていったいなんだろう?

南阿蘇村での1コマ。たぶん、東京でカエルとか見たらおそれおののいちゃうのかもしれないけど、村ではかわいくてしかたがないんですよね。手乗りガエル。手だけでは飽きたらず肩の上にまで乗せてました。

「あたらしいふるさと」。それは、生まれた場所でもなく、住んでいる場所でもない、心のよりどころとなるような場所。東京にほど近い埼玉県のベッドタウンで生まれ育ち、社会人になってからは都心に住み続けている私にとっても、そのような場所がずっと欲しいと願っていました。それはまた、観光でただ訪れる旅とも違う、「帰る」場所であってほしいと願える旅。旅を多く重ねていくと、1回限りの関係で終わってしまう旅はしたくなくなります。好きになったその場所についてもっと知りたいし、もっと役に立ちたいし、もっと時間を過ごしたい(あれ、なんだか恋愛みたいな言い回し?)。観光名所を巡るだけではない、新しい日本の旅の仕方を提案しようと思ったのが、この特集でした。

例えば、本誌p.30の山形県大蔵村での写真で地蔵神輿を担ぐ先頭右の堀内大さんは、実は今も仙台在住の方。始めは山菜採りがきっかけでこの村によく来るようになり、地元の人々と触れ合ううちに仲良くなり、気がつけば1,200年以上の歴史を誇る肘折温泉の開湯祭の祭りの先頭に立つまでになってしまったのでした。p.26-27の熊本県南阿蘇村でのバーベキュー写真に小さく写るベルギー人のヨナタンは、日本を旅していてこの村と出逢い、大好きになり、ついには移住を決意し、小さな自転車ショップ+カフェを村で開くべく準備を始めています。p.34から紹介している秋田県上小阿仁村でのアートフェスティバルの準備をするボランティアには多くの村外や県外の方もいらっしゃると聞きました。「あたらしいふるさと」を、いま、多くの人が求めているのではないでしょうか。

日本中で地域おこしに関わっている山崎亮さんは巻頭の座談会で、こうおっしゃっています。「村に必要なのは、カンコウよりカンケイ」だと。その土地との関係を築き、暮らすように旅をする。まだまだ、日本には美しい村がたくさんあります。まずはふらりと気になる村に出かけて、すれ違うおばあちゃんに挨拶してみたり、水源の水を美味しく頂いたり、川沿いに腰を下ろしぼんやりと景色を眺めたりしてみましょう。あなたにとっての「あたらしいふるさと」探しが、きっと、始まります。

●田島 朗(本誌担当編集)


From Editors 2

クルマで780km、15時間。旅の目的地は、すべて「村」です。

なぎの蒲焼き。ちなみに、うなぎを捌く時には、柿の葉でうなぎを掴むとすべらないそうで。実演して見せて頂きました。

夏休みシーズンには少しだけ早い7月の頭、村を巡る旅に出ました。

高知龍馬空港から始まった旅は、全行程をトータルすると、およそ780kmにも及びました。すべて1台のクルマで動き、移動時間だけでも約15時間です。旅のルートは、高知龍馬空港→高知県馬路村→高知県三原村→岡山県西粟倉村→岡山空港。海沿いを走り、山間を分け入って、時に都会の街並を抜けて、再びあぜ道をひた走る。くるくると変わっていく窓外の景色を眺めながら、編集者、フォトグラファー、ライターの3名は、圧倒的な自然の景観に嘆息を漏らすのでした。

雨上がりの昼前、水量豊かな渓流沿いにクルマを走らせ、訪れた馬路村。途中、視界に靄がかかり、“何か”が出そうな道を抜けた先に広がる村は、思いのほかこじんまりとした印象です。ただ、《ごっくん馬路村》や《ぽん酢しょうゆ ゆずの村》といった、ゆずを使った商品の大ヒットで一躍有名になった村に建つ加工施設は、山奥の村とは思えないほど立派でハイセンス。また、ゆずのイメージが先行していたせいか、勝手に広大な畑だけの景観を想像していたのですが、村には豊かな水量をたたえる渓流が横切り、温泉施設も備えていました。農協に勤める方の案内で、うなぎ捕り名人の二人と出会い、夜は一緒に酒盛りです。酒の肴は、ライバル同士だという二人が(競い合って)捕った天然のうなぎ。「自分たちはいつも食べてるから」と勧められるまま、身の厚い蒲焼きを腹いっぱいご馳走になりました。夜遅くまで酒を酌み交わしましたが、自分が住む村の素晴らしさを楽しそうに語っていた姿が印象的でした。

普段味わえない圧倒的な自然の風景に刺激を受けたり、イメージとは大きくかけ離れた村内の様子に驚いたり、村の人たちの話に心が穏やかになったり。都会への旅もいいですが、村を巡る旅も想像以上にエキサイティングです。時間が許せば、私たちのように“ヴィレッジ・ホッピング”してみるのもおすすめです。それぞれの村の個性がより一層際立って楽しめます。

余談ですが、780kmの旅を終えた後にも、他の村をいくつかまわりました。そのときの取材も含めて、誰ともなくスタッフの口から漏れてきたのは「あぁ、この風景、なんだか懐かしい感じがしますねぇ」の言葉。例外なく、その呟きにスタッフ一同が賛同したのですが、その中には生まれも育ちも都会だという人も。もしかしたら、村の風景にノスタルジックな気持ちを抱くDNAが私たちにはあるのかも知れません……ね。

●阿部太一(本誌担当編集)


ブルータス No. 761

美しき村へ

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ブルータス No. 761 —『美しき村へ』

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