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100%の“やさしさ”はあるのか? From Editors No.945

From EditorsNo.945 フロム エディターズ

100%の“やさしさ”はあるのか?

今回の特集テーマは「やさしさ」。曖昧で、答えのないこの特集でまず思い立ったのは、各年代を代表する著名人に「あなたにとってやさしさとは何ですか?」とド直球にぶつけてみること。年代も違えば、価値観も違う方々に話を聞くことで、多様なやさしさの在り方がわかるのではないかと思いスタートしました。

真っ先に思いついたのは、TVプロデューサーの上出遼平さん。
「ハイパーハードボイルドグルメリポート」は言わずもがな、今年始まったポッドキャストもとびきり面白いのです。取材は国内、そして音声レコーダーによる突撃ロケ。右翼団体、左翼団体、セックスワーカー、パパラッチ…共に飯を食べながら、ポツリポツリと語られる彼/彼女らの生き様を覗き込む。音声ならではの深い没入体験が得られます。

“やさしさ”の対極にあるような環境に潜り込み、数々の修羅場を潜り抜けてきたであろう上出さん。彼の考えを聞いてみようと、意気込んで取材に赴くと…。

「純度100%のやさしさってないと思うんです」と取材冒頭でいきなりの発言。
「やさしさとは何か?」を聞きにきた自分は面を食らいながらも続く言葉を聞いて納得しました。
「僕、電車でめちゃくちゃ席を譲るんですけど、“大丈夫です”と断られると、なんとも言えない気持ちになる。でもそれってつまり、自分のためのやさしさなんですよね。100%、相手を思って発したことなら、“よかった”でいいじゃないですか」
その経験は痛いほどわかる…。どんなに親切な言動でも少なからずエゴが入り込んでいる。それでは、他人から受けるやさしい行為をどう受け止めているのだろうか?
「ただ…たとえ純度20%でもそのやさしさを否定してはいけないと思うんです」
なるほど、例え自分が気持ち良くなるための行為だとしても、それを否定したり、つっぱねることはしない。その20%のやさしさを全肯定する。それが上出さんなりの“やさしさ論”なのか、と深く納得したことを今でも鮮明に覚えています。

取材を重ねながら、徐々に考えを深めていくことができた今号。「純粋に相手のことだけを考えた“やさしさ”は存在しないのではないか。だが、それでも全肯定する」という考えを序盤で知ることができたのは、他の企画を考えるにあたってもとてもエポックメイキングな取材でした。

●清水政伸(本誌担当編集)
BRUTUS 945号:From Editors
写真はエーリック・フロム著「愛するということ」。“愛”をテーマにした名著中の名著だが、上出さんはやさしさに置き換えても的を射ていることが多いという。記事の副読本として読んでみるのもおすすめです。


ブルータス No. 945

やさしい気持ち。

760円 — 2021.08.16電子版あり
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ブルータス No. 945 —『やさしい気持ち。』

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