From Editors No. 779 フロム エディターズ
From Editors 1
喫茶店って、いったいなんだ?
モヤモヤと考えながら、出た結論。
最も根本的な疑問が「そもそも喫茶店ってなんだ?」ということ。
コーヒー専門店、大バコの大衆的な店、地元に根ざした個人経営の小体な店、チェーン店まで“喫茶店”と呼ばれるものには実にさまざまなスタイルがあります。振り返ると、当初は、正しい喫茶店のあり方や定義にとらわれすぎていたフシがあります。いろんな人にも話を聞きました。みなそれぞれ、自分の頭の中に描く喫茶店像が違うし、どの意見も頷けるものでした。ふと思いました。喫茶店に正解なんてないんじゃないか。そんなとき、「全国の若い喫茶店主に会いに行く」という企画でご一緒した編集者の大先輩・岡本仁さんの一言が胸のモヤモヤをスッと取ってくれました。
「喫茶する心があって、それを満たしてくれる店は、すべて喫茶店なんじゃないかな」。
100人いたら100通り。行った人がほっとひと息つける。なるほど、共通点はそれぐらいでいいのかも。というわけで、今回の特集では、大上段に構えた正しい喫茶店論などは登場しません。全国100軒超のお店を紹介していますが、そのタイプは本当にさまざまです。でも、すべてが“喫茶店”である、といまは自信を持って言えます。読者のみなさんの行きつけになるようなお店がひとつふたつ、見つかれば幸いです。なじみの喫茶店があることは、日々の生活をとても豊かにしてくれます。個人的な喜びで恐縮ですが……打ち合わせならここだな、昼飯食うならここだな、サボるならここだな、と今回の特集を経て、いろんな街に喫茶店のブックマークが増えたのがなによりの収穫です。ちなみに私がなじみにしたい喫茶店は「普段着で行けて、煙草が吸えて、周りの目を気にしないでよくて、軽食がうまい店」です。あ、パフェもあったらいいですね。
みなさんが喫茶店に求めるものはなんですか?
From Editors 2
(喫)サテンのある街に住みたい。
<ロンディーノ>では厚切りのトーストをよく頼みます。サイドディッシュはマヨネーズをあえた軽くてマイルドな「タマゴ」も捨てがたいのですが、真っ白いシンプルな「ポテトサラダ」がおすすめ。フレンチドレシングのかかったつけあわせのレタスをちぎって、ポテトサラダと一緒にトーストにのせて食べる。なんでもない味ですがなんでこんなに美味いんですかね、喫茶店のトーストは。そこで一人で過ごす時間も味に入っているのかも、なんて。私の好みなんてどうでもいいと思いますが、もう少し。コーヒーはジャーマンだ! 喫茶店だとコーヒーの濃さ(煎りの深さ)をアメリカンとかジャーマン、フレンチとか、国名で呼ぶのはなぜでしょうか。ジャーマンは中煎りぐらい? これは日本の喫茶店に特有だそうです。アメリカにいって「アメリカンひとつ」と言っても通じないらしいですよ、お父さん。エスプレッソを薄めたアメリケーノってシャレた飲み物はあるらしいですが。気取らない、並ばない、高くない(値段が)のも喫茶店のいいところ。
世に言う”サードウェーブ”を経験し、はじめてコーヒーの味というものがわかった気になっていましたが、喫茶店を巡ってからはすっかり「浅煎り」では物足りなくなりました。喫茶店のコーヒーは基本「深煎り」「ブレンド」ですからね。油でグロッと黒光りしているぐらいしっかりローストした豆で、ダークチェリーのような後味がするものとか、魔性の味ですよね。喫茶店の魅力を再発見する過程でコーヒーの味を新発見、というのが喫茶店巡りをした成果であります。
銀座、浅草、神保町(名店が多い、東京における喫茶三大聖地)をはじめ、いろいろとまわりましたが、喫茶店を知るとその街と自分の間にある溝をひとつ埋める感じがしました。その街に自分のフラッグを立てるというか、居場所を作るというか、その街がもう一歩近くなる感じ。これはおいしい蕎麦屋や居酒屋にいくのとはまた違いますね。喫茶店はわざわざ電車に乗っていかないですし、あと誤解を恐れずに言えば美味しくなくてもいい。銀座ならランブル、渋谷なら茶亭羽當、恵比寿ならヴェルデ、浅草ならアロマとか。いずれも ”おいしい” 名店なので説得力がありませんが。