マガジンワールド

From Editors No. 801 フロム エディターズ

From Editors 1

だって知りたいんでしょ。
会いに行けばいいじゃない。

「欲しい情報があって、その真偽のほどを確かめたいときはどうしますか?」という質問に、「どうするって…どういうこと? 知りたいことがあったら、当事者に聞きに行けばいいんじゃないの? 僕はいまでもそうしているよ」とは81歳ジャーナリストのお言葉。一次情報を取りにいくこと以上に、良い方法があるだろうか。取材しながら自分の投げかけた愚問に恥じ入った。でも、田原総一郎さんは決して私たちを突き放すのではなくて、大きな器で受け止めてくれた。厳しい目をしながらも、ひとつひとつの質問に丁寧かつ的確な答えが返してくれる。こちらがインタビューをしているのに、本当に自分が聞きたいことは何かを、逆に田原さんに確かめられているような感覚に陥った。

特集を4ページ作るのに、お会いする機会を4回いただいたうえ、こちらが納得いくまで何でもさらけ出してくれた。撮影だって、一度もNGを出されることはなかった。ご自宅の部屋、いつも持ち歩く手帳の書き込み、母校で在校生向けに開いている「大隈塾」の講義。そしてBS朝日『激論! クロスファイア』の打ち合わせの場と、本番収録とその前後。私たちがカメラマンに撮影を指示をするたびに、「何が知りたい?」と、“好奇心の塊”がこちらの好奇心を探ってくる。そして質問の途中でも討論番組ばりに、僕らに突っ込むのだ。

「君ならどう考える?」

田原さんは自分が興味あることしか仕事にしないと言い切る。だからこそ、討論番組のキャスティングやアポ取りを率先してやることが多いし、テーマも自ら提案することが多いという。ジャーナリスト歴約60年。インタビュアーの大先輩にその極意を聞いてみた。「視聴者が知りたがるような核心に迫る話を、出演者から引き出すコツってなんですか?」と。「視聴者? コツ? んー。僕が知りたいから聞いてるだけだよ」。といった調子。徹底しているのだ。「あと、ひとつ言えるのはね、想定外のことを期待してするのが取材。そういう答えを引き出すためには、相手のことを徹底的に調べ尽くして、隙を与えないことだよ」。

最高の授業をありがとうございました。

 
●鮎川隆史(本誌担当編集)
高層マンションの一室、見晴らしいの良い自宅にて。書籍に埋もれるように執筆作業を進める。部屋の整理は大の苦手だそう。。。
高層マンションの一室、見晴らしいの良い自宅にて。書籍に埋もれるように執筆作業を進める。部屋の整理は大の苦手だそう。。。



From Editors 2

ファッションだって、暮らし方だって、
そして情報術だって、
自分にあった“スタイル”が大事。

漫画家の小山宙哉さんの仕事場を訪ねました。書棚には、場所ごとジャンルごとに分類された膨大な量の資料がストックされています。開いて見せてもらったファイルに並んでいたのは、飛行機やスペースシャトルなどのディテールに関する資料写真。「ディテールが描けないとネーム描きが止まることもある」小山さんにとって、“情報”は舞台装置。精緻に描き込まれた舞台があるからこそキャラクターをリアルに動かすことができます。たくさんの情報をいつでも取り出せるように整理して、手元に置いておくことは大事なことなのです。

その数日後、落語家の柳家喬太郎さんに会いました。池袋の喫茶店に現れた喬太郎さんは、ほぼ手ぶらです。「ネタ集めはしませんね。ふと気になった看板の言葉を携帯にメモするくらいのことはあるけれど、ガラケーだし、読み返すこともほとんどないし」と笑う喬太郎さんが噺をつくるときに引っ張り出すのは、過去の記憶。心に引っかかったことを思い出して、それを端緒に物語を転がしていきます。喬太郎さんにとっての“情報”は、ひとつのきっかけ。かたちにしてストックしておくようなことはしません。台本も書き残さないのだとか。

情報が果たす役割も、その集め方や整理の仕方も人それぞれでした。たとえ便利な情報収集&整理ツールが登場しても、使う人すべての仕事のクオリティーを向上させるわけではありません。大事なのは、自分にあったスタイルを見つけることなのです。

そう心得た私にとって、大事な情報収集の場は酒場です。それもひとりで飲みに行ったときの酒場。仲の良いバーテンダーや隣に居合わせた見知らぬ客から聞く話が仕事に役立つ場合が少なくありません。酔った頭でも忘れないように携帯のメモに“情報”を書き留めておくことがあるのですが、先日も「これだ!」と思う内容の話が聞けたのでしょう。メモが残っていました。後日、開いてびっくり。そこには、「孤独。菅原文太」とだけ……何を伝えたいんだ、オレ。私の“スタイル”が確立するのは、まだ先のようです。

 
●阿部太一(本誌担当編集)
ある日の酒場で私のインスピレーションを掻き立てたと思われるキーワード。ここから分かる情報は、私が酔っていたことだけ。句点の有無が物語ります。
ある日の酒場で私のインスピレーションを掻き立てたと思われるキーワード。ここから分かる情報は、私が酔っていたことだけ。句点の有無が物語ります。


 
ブルータス No. 801

真似のできない仕事術

662円 — 2015.05.15
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ブルータス No. 801 —『真似のできない仕事術』

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