From Editors No. 809 フロム エディターズ
From Editors 1
田中 泯さんの「場踊り」を
目の当たりにする幸せ。
アラーキーからドリス・ヴァン・ノッテンまで、服を愛する様々な人に話を聞いた今回のファッション特集、「服に愛」。人選の振り幅はいつも以上に大きいけど、話が面白いのだから細かいことは気にせずに。駆け出しの編集者時代に「会いたい人に会えるのが編集者の醍醐味だよ」とよく先輩から聞かされたものだが、その意味を改めて噛み締めた1冊である。
インタビューではなく、スタイリングのページで嬉しい出会いがあった。舞踏家の田中 泯(たなか みん)さん。最近はNHK朝の連続テレビ小説「まれ」で俳優としての姿が記憶に新しいかもしれない。写真家の平間 至さんがライフワークとして田中さんを撮り続けているが、鬼気迫る「場踊り」の写真からは、近付き難いオーラが溢れていた。そして、いつかあの動きをこの目で見たいと、ずっと思っていた。
登場いただいたのは〈rag&bone〉のページ。今シーズンのイメージムービー(*)にヒントを得て、田中さんに服を着て踊ってもらうという企画をたてたのだ。問題はカメラマン。近年では、アニー・リー・ボヴィッツと平間 至さんくらいしか撮影の許可を出していないはずだ。そこで気鋭の若手写真家、小浪次郎さんの写真集「父を見る」を田中さんに届けたところ、「この人の写真ならば」とOKの返事。
「場所で踊るのではなく、場所を踊る」のが田中さんの考える場踊り。当日、服を着てスタンバイした田中さんは、30秒くらい「場」を感じたあと、即興で踊りに入っていった。動きながら、間を取りながらシャッターを切っていく小浪次郎さん。猛暑の中の撮影にもかかわらず、見ているだけで全身に鳥肌が立った。本誌のページを見ていただければ、場の空気が少し伝わるかもしれません。
*ミハイル・バリシニコフ(バレエ)と、リル・バック(ストリートダンス)が〈rag&bone〉の服を着て踊るムービー。これがまた格好いい。https://www.youtube.com/watch?v=2rFRTyfwBH8
From Editors 2
信國大志だけが知る、
マックイーンの二つの顔とは。
今年6月にロンドンコレクションの取材に出かけた。在住の人たちが「マックイーン展は見といた方がいいよ」と口を揃える。連日満員、入場制限も出ているというので、朝、オープンの40分前にヴィクトリア&アルバート博物館へ。10名程度の行列に並び、無事入場することができた(10時のオープン時には行列は200名ぐらいに延びていたが)。果たして会場で目にする服(というか作品)から発せられる、鬼気迫る感じはなんなんだ。会場の音楽や演出も素晴らしいのではあるが、鳥肌が出るような展示の数々。感じたのは、アレキサンダー・マックイーンが抜き差しならない関係で服と真剣勝負し、命を削るような思いで作業をしていたのではないか、ということ。
「服に愛」特集が立ち上がった時、マックイーンはこの特集にぴったりな存在だと思った。まさに「一生を服に捧げた男」だと思ったからだ。そこで、まず生前のマックイーンと親交のあったテーラーの信國太志さんに話を聞きにいった。ちょっと意外な事実も判明する。パブリックスターとしてのアレキサンダー・マックイーンの顔と、イーストロンドンで信國さんたち仲間だけに見せるリーとしての顔。ファッションに対し傾ける熱さと裏腹に、持っていた非常にクールな目線。そのどちらも本質なのだろうが、相反する二つの顔が実は彼のクリエイションの根底にあったのだろうか。信國さんには、天国の彼への手紙という形で寄稿してもらった。相反する二つの顔が実はマックイーンのクリエイションの根底にあったのではないだろうか。内容は本誌でご確認を。
今回は、他にも服を愛する人たちの興味深い話が目白押し。溢れるマルジェラ愛を二時間ノンストップで語ってくれたスタイリストの北村道子さん。「スニーカーもいいけど革靴も…」とその魅力をマニアックに話す、靴磨き職人の長谷川裕也さん等々。読み物だらけのファッション特集。今宵、あなたも愛する服の話を酒の肴に。