From Editors No. 815 フロム エディターズ
From Editors 1
とにかく楽しきゃイイジャナイ!
今こそ小説の世界にただ浸りたい。
私の家から会社までは所要時間がだいたい20分くらいなのですが、5分乗って乗り継ぎしてまた5分乗る、という通勤なもので、落ち着いて本を読める環境ではありません。なのでしかたなくスマホをいじりながら時間をやり過ごします。すると、まあ、出てくる出てくる、ライフハックの体をしたトピックの多いこと。「あと3時間早く帰れる仕事術」「絶対後悔しない結婚相手の選び方」「確実に二日酔いにならない酒の呑み方」「猫に好かれる人になる方法」……。これらを全てマスターすればさぞかし立派な人間になれるのかしらと呟きつつ、やっぱり人間というのは情報で武装するより自分の中からどれだけ引き出せるかが大事なのではとも思ったりします。ヘルマン・ヘッセも「どんな書物もあなたに幸せをもたらさないが、あなた自身に立ち返ることを教えてくれる」みたいなことを言ってましたし。
でももうそんな“人生の役に立つ、立たない”みたいなことすら気にせずに、ただ人々の想像力が創り上げた小説世界にどっぷり浸ってみようじゃないか、というのが今回たどりついたテーマでした。小説を読むのは少し骨が折れます。事実を記録したものとは違い、私たちが想像できることのはるか上を行く世界が毎度の如くそこには拡がっているから。そして読み進めるうちに、現実世界と違うもうひとつの世界がそこに存在しはじめ、自分がその世界で生きているような気になっていく。2冊併読なら2つの世界が、3冊なら3つの異なる世界が。そして好きな量を好きなペースで読む小説はそれぞれの世界に自分のペースで出入り自由で、映画など多くのエンタテインメントが写実化され私たちの妄想が入り込みにくくなっている中でこんなに贅沢かつ素朴な娯楽はないのではないかと改めて思ったのでした。
今回登場して頂いた小説好きのみなさんも、それぞれが愛する小説世界を好きなように語ってくれています。とにかく楽しいから小説を読む。ド直球の今回の本特集ですが、それだけに本好きたちの熱い読書愛が今まで以上に垣間見える特集になっています。私もこの年末年始は、特集を進める上で知り得た多くの小説に埋もれて年を越す覚悟であります。楽しみ!
From Editors 2
好きな小説を語ることは、
自分を語るようなものです。
人の家に行くとつい本棚を見てしまいます。
「どんな本を読むか」ということは、表面的な付き合いでは見えにくい、その人の深いところを表す気がして。それを見て、この人とは気が合いそうだな or 合わなさそうだなといったところまで考えてしまっているような。(だからか、最近は「見せ本棚」「モテ本棚」なんて、意図的に本棚づくりする人もいるみたいですね。)
今回の特集は、人の本棚を覗くような、「好きな小説を挙げてそれについて語ってもらう」という内容です。シンプルですが、ホントに“人”が出るんです。
「ハッピーな話が好きと言いながら、選ぶ本はなぜか“切ない系”になる女優」
「放浪とドラッグ、狂騒と混沌のビートニク小説の世界を愛する狂言師」
「『村上春樹はムリ、山田悠介は神』と語る、でも大人びた女子高生」
「職業柄、ついつい登場人物の心を解析しようとする精神科医」などなど。
その人の名前を知らなくても、どんな人なんだろうと想像力が働きませんか?
面白そうな小説に出会えるだけでなく、人と作品のマッチングを楽しめるような特集になっていると思います。
もし、あなたの周りにもう少し距離を縮めたいと思う相手がいるなら、その人が好きな小説を聞いてみるというのも乙なアプローチかもしれませんね。なんつて。