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都市からたった数十分で野生のペンギンに会える国。 From Editors No.853

From EditorsNo.853 フロム エディターズ

都市からたった数十分で
野生のペンギンに会える国。

“決定的瞬間”を捉えるため、野生動物の蠢く原生林に潜み何日も待ち続ける。荘厳で偉大な自然の光景を収めるため、大型カメラを積み込んだ四駆で山々の間を走り回る。技術に長けたタフな写真家たちが艱難辛苦を乗り越えてついにものにした圧倒的な作品群は知られざる自然の美と驚異を伝えてくれる。その素晴らしさは本誌でたっぷりと感じて欲しいけれど、一方でそうした豊かな動植物に触れながら写真を撮影することの喜びや楽しみを一部のプロフェッショナルだけの占有物と考えてしまうのは早計ってやつだ。その意味で、今回取材で訪れたニュージーランドほど「民主的」な場所もなかなかないのではないか。何せ、都市からったった数十分から一時間ほどで、世界のどこでもまず見ることのできない稀少なペンギンや野鳥たちにほとんど確実に出会えるのだから。

多くの稀少な鳥類が棲息する「野鳥の王国」として写真家たちを惹きつけているニュージーランドは当然ながら、世界中から自然を愛する「アマチュア」の人々が多く訪れる土地でもある。南島の古都ダニーデンの位置するオタゴ半島の野生動物保護区を訪れる少人数制のツアーに参加すれば、ビーチで野生のオットセイやアシカ、イエローアイドペンギンの姿を信じられないほど近くで眺めることができる。北島オークランドの東海岸からたった5kmのティリティリ・マタンギ島の深い森の奥では、絶滅危惧種のタカヘを始め、コカコ、トゥイ、ファンテイル、スティッチバード、カカリキ、ケレルなど色鮮やかな鳥たちが木々の間を動き回り、美しい声を響かせている。ホテルもレストランもないこの島に、彼らに出会うためだけに足を運ぶ人々は実に多種多様だ。観光客もいれば、家族連れやカップルもいる。みんな気軽に写真を撮り、バードウォッチングだけをして半日をのんびりと過ごす。特に珍しい鳥を撮影できなかったといって焦ったり落ち込んだりする必要はない。二度と来られないような場所ではないから。そんな自由でリラックスした自然写真の楽しみ方もあると心得よう。大いなる自然の前では誰もが「アマチュア」でしかないのだ。

 
●︎︎︎井出幸亮(担当ライター)
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ニュージーランドの「野鳥の島」、ティリティリ・マタンギ島を訪れる人々がフェリーから桟橋を渡る。バードウォッチング以外にはほぼ何もすることがないというのがいい。


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