From Editors No. 768 フロム エディターズ
From Editors 1
いま、木の家がただしい。
改めて、その理由を思い返してみた。
自宅を建て直すこととなり、そこに来る大工さんに端材やベニヤ板のあまりをもらい、近くの空き地に一畳ほどの小さな小屋を建てた。何をするでもない、休みの日に、日がな一日、その小さな空間にいることで、なにかに包まれるような、そんなやさしい場所だった。今回の特集を始めるにあたり、最初に心に浮かんだ光景が、この小さな木の家だった。
小屋、ツリーハウス、そして木の家にいいイメージがあるのは、身近にあって、普段から目に入り、触れることができる素材であり、自分の手で造ることもできる、カラダの延長線状にいるような存在だからではないだろうか? 年月とともに味が増していくのもいい。共生している、という感覚が自ずと湧いてくる。
その一方で脆いとか火に弱い、というマイナスイメージもある。真実ではあるのだけれど、数千年、木と付き合ってきた人類だからこそ、そのマイナス面を払拭する技術は確実に進歩している。
木のしなやかさを活かして、地震の揺れをゆるやかに和らげる。木板の上に木板を重ねあわせて、燃えシロを造ることで、防火対策を講じる。安価に手に入れられる集成材の種類も多彩だ。木造建築を手がける建築家たちの話を聞くと、物理的な安心がここ数年で増してきているのが、よくわかる。そして、今回の特集で取材した建て主、建築家たちが家のことを話すときの顔もとてもいい。
だからね、木の家はただしいと思うのです。
From Editors 2
感じのいい木の家は、
建築家と建て主の関係がイイ。
ある家での取材のこと。
朝からの撮影がお昼にさしかかったころ、建て主の奥様から「実はお昼にカレーを用意していまして……よかったら……」と嬉しい申し出が。「ぜひ!」と答え撮影を続けていると、奥様と、建築家の女性がキッチンでランチの準備を始めています。流しの前に仲良く並ぶ姿は、まるで姉妹のよう。
またある家での取材のこと。
1時間ほど早く到着して、「さすがに迷惑かな」と家の前で約束の時間まで待つことにしていた取材チーム。するとすぐさま玄関から笑顔で出てきたのは建築家。「いやー、僕も早く着いちゃって、すっかりくつろいでましてね」。どうぞ、どうぞ、と家に迎え入れるのもなぜか建築家。取材中も建て主家族と笑いの絶えない会話を。息子さんと屈託なく話す姿は、まるで実の叔父のよう。
はたまたある家での取材のこと。
建て主と建築家にあらかた話を聞き終え、カメラマンと撮影に励んでいると、主人と建築家が真剣に話をしています。何やら真面目な仕事の相談のよう。忌憚のない意見を言い合う姿はまるで仕事の相棒のよう。
三軒とも建築家と建て主はもともと知り合いでなく、家作りを建て主がお願いすることから関係が始まっています。
いずれの撮影にも立ち会った、本誌でもおなじみの伊藤徹也カメラマンは言いました。
「いい家って、総じて建築家と建て主がすごく仲良しだよね」
建築家が自分の理想を押し付けても、建て主が自分の要望を言い過ぎてもダメ。家作りの過程で、一生付き合いができるほどの信頼関係にまで発展してこそ、いい家はできるんだ。
私事ですが、数年前に実家の家作りに参加したことがあります。横からあーだ、こーだとうるさいぐらいの要望を設計者に伝えた過去を振り返り、深く反省するのであります。