From Editors No. 771 フロム エディターズ
From Editors 1
無駄な物を集めると、世界が少し楽しくなる。
「本の背(表紙)」が語りかけてくると言い、本がうずたかく積まれた部屋は ”知識人” を目指す人たちのある種の ”憧れ” であった。とくに50代、60代には強く刷り込まれたものがあると思う。本もそれだけ貴重だった。そこからは十数年は開きのある、私たちの世代が読んでいた雑誌に登場する ”カルチャースター” たちは、とにかく物を持っていた。巻頭で取材した高城剛さんは「持つことが正義だった時代」と振り返っていたけれど、物を持っている人は魅力的だったし、物に対する博識ぶりに憧れ、持たないとわからないと思っていたから何でも持とうとした。財布に無理して洋服を買い、新しいガジェットが出たらすぐに試した。本や雑誌も同様に。
コレクターの特集を作りたいと思ったのは、むしろ逆で、私も物を手放したいと思っているからに違いなかった。これといってコレクトしているものもないが、ちょこちょこ買い込んでしまうので家には物がたくさんある。ただ本当に必要な物は何もないので、大げさでなく捨てるならいっそ全部捨てしまいたい。ただ、それでは仕事をする上でどこか心許ないのだ。家にあるこの一見無駄な物や本は手元に置いておくべき価値があるのだろうか?
いまはどこか「無駄」な物が居辛くなってきている。集めること、持つことの理由を上手く説明できないといけない。しかし人が物を集めることにみんなが納得する理由があるなんてことはほとんどない。
知りあいでトイレットペーパーの包装紙を集めている人がいて、それを聞いた時に、物好きだなぁと思ったけれど、その視点があることに少し羨ましくもあった。その後、出張で搭乗した航空機のトイレに、魅力的なトイレットペーパー(の包装紙)があることに気が付き、世界が少しだけ楽しくなった。
From Editors 2
悪徳ブルータス
ところが、今回の「THE COLLECTORS 2014」特集は、通常では考えられないスケジュールで取材が行われていった。正確に計算したわけではないけれど、コレクター1人につき、優に3時間はかかっている。
倉庫に山と積まれたペダルカーを一度全部外に出し(オマケにエンジンのかからない本物のクルマまで押し出して)、あらためて倉庫の中にペダルカーを並べ直したり、逆にキレイに棚に整理された2000個以上のゲームソフトを、わざわざバラして床に敷き詰めてみたり……。わずか1カット撮るために、カメラマン、ライター、編集者だけでなく、コレクター本人も一緒になって、黙々とセッティングに精を出すのである。そしていざ撮影となると、今度はコレクターのこだわりやらカメラマンの美意識やらが頭をもたげてきて、なかなかキメの1カットにたどり着かなかったりもする。そりゃあ半日仕事にもなろうというものだ。いやはや。
そうやって撮影した写真には、恐ろしいほどの量の情報が詰まっている。ぜひ1カット1カット、ルーペ片手にご覧いただきたいのだが、但し、そこに詰まっているのはたいていの場合、役に立たない情報ばかりだ……。
効率がよかったり、役に立ったりすることが美徳と考えられている現代において、この特集は圧倒的な手間と無駄の塊、まさに悪徳特集である。でも、マルキ・ド・サドを引くまでもなく、悪徳は甘美な匂いに満ちている。読者のお役に立つことを一義としているブルータスだって、たまにはこんな悪戯をしたくなるのだよ。