From Editors No. 792 フロム エディターズ
From Editors 1
新たな気持ちで
読書に入門してみよう。
昨年の本特集「この本があれば、人生だいたい大丈夫」につづき、今年のテーマはずばり「読書入門」。え、読書に入門なんてある?と思う方も多いかもしれません。しかし、電車の中で文庫本を開く人を見かけることもめっきり少なくなり、今回行った街角取材でもなかなか本を持ち歩いている人に出逢えなかったりと、いつしか読書は「趣味」ではなく、いわば「特技」になってしまっているのかも、と感じたのです。「オレ、本読んでるんだぜ、スゴいだろ」みたいな。でも、読書って、もっと気楽なものだし、やっぱり趣味だし。もう一度、新たな気持ちで読書と向き合える特集をつくりました。
20人の本好きたちが語る、それぞれの本との関わり方は個性的で。角田光代さんの「家のあちこちに本を置く」には、激しく同感。リビングと寝室と風呂とトイレで読む本はすべて違うんです。はい。角幡唯介さん&KIKIさんによる「旅に絡めて本を読む」の、“旅が終わってから本を読む”というのにも同感。情報を一切頭に入れずにその地に立ち、一度体感してから本を読みイメージを増幅させるほうが好きだったりします。こんなふうに、自分と似た読書をしている人を見つけてみたり、逆に今まで無かった読書体験に出逢ってみたり。
といっても、登場人物のみなさんが多読なわけではありません。巻頭に登場する星野源さんなんて、マンガの方がよく読む、とのっけから公言するくらい。でも、それでいいんです。大事なのは、読んだ冊数よりも、楽しく本を読もうとする気持ち。本が大好きな人々に聞いた、本の読み方、選び方、関わり方。この特集で読みたい本と真似したい読書術を見つけて、この年末年始はゆっくり本でも読みませんか?
From Editors 2
めくるめく書店ポップの世界。
1食でもつまらぬ食事はしたくないと、その日食べるモノ、食べる店を吟味する人がいますが、食事以上に慎重に選びたいのが本、ですね。読書に費やす時間もそうですし、退屈な読書自体、なかなか辛いものがあります。ところで本を選ぶときに何を参考にしています? 新聞や雑誌の書評? ブロガーのコメント? それとも上司友人恋人の薦め? 書店で手がかりになるのがポップです。今回、全国の目利き書店員さんたちに「2015年の課題図書」というテーマで選書して頂き、イチオシの本には手書きポップを描いてもらいましたが、これが素晴らしかった。ポップそれぞれに個性がにじみ圧倒的に面白いのです。
書店のポップと言ってまず思い出すのが「ヴィレッジヴァンガード」さん。ああ、書店ポップってこういうものだよね、とつい思ってしまう黄色台紙に書かれた短く鋭いキャッチコピーはさすがの出来。手書きポップは「ヴィレヴァン」のいわば”お家芸”です。ポップをアートにまとめてきたのは松江の「artos」さん。滝平二郎を思わせる「切り絵」的な文字を、”ポップ”なグリーンカラーで仕上げた渾身の1枚。緑色は「artos」さんのイメージカラーでもあります。そして美しい店主のいる大阪の「隆祥館書店」さんには「女ごころがわかる本」というお題でお願いしましたが、バラの花カゴをポップ右下端にさりげなくコラージュしたこの上品さを見よ! と、興奮のあまり、ついつい台詞もポップ調になってしまいましたが、「隆祥館書店」さんから送って頂いた(ポップの入った)封書を開いた途端、フローラルの香りが編集部を包み……。香るPOP、素晴らしい。感動のあまり手が震えました。この香りを読者のみなさまにお届けできないのが今号、唯一の心残り。
ほかにも、”こたつがある” でお馴染みの池袋「天狼院書店」、”売れない文庫フェア” の北海道「くすみ書房」、”普段ポップは書きません” という下北沢の「B&B」など、本屋特集でもお馴染みの名物書店を中心に、選りすぐりの優良書店さんにご協力を仰いだ「全国の目利き書店員57人が選んだ 2015年の課題図書」。乞うご期待であります。