From Editors No. 796 フロム エディターズ
From Editors 1
ロンドンを暮らすように旅して
ひさびさに感じたこと。
初めてのロンドンは20歳ぐらいだったでしょうか。オアシスとブラーがしのぎを削り、アレキサンダー・マックイーンやジョン・ガリアーノやダミアン・ハーストの存在に衝撃を受けた頃。いわゆるクール・ブリタニアを体感したく、当て所も無くロンドン中を毎日ほっつきあるいたことを今でも思い出します。夜は暗い夜道にどきどきしながらブリクストン・アカデミーやミニストリー・オブ・サウンドに遊びに行ったり。私にとってあの頃のロンドンはやはり、いつも刺激を与えてくれる街でした。
今回、久しぶりに訪れたロンドンは、あの頃ほっつきあるいていたロンドンよりもはるかに拡がり、変化していました。僕が“当て所も無い”と思っていたエリアは、今の変わりゆくロンドンから見ると、まだまだ狭い範囲だったんだなあ、と。東ロンドンのショーディッチはもちろん、ホクストンにダルストン、南のブリクストンやペッカム、クリスタルパレス。ところどころで、たくさんの刺激に出逢うことに。クール・ブリタニアの終焉後、なんだかロンドンから気持ちが離れてしまい、自分のなかにぽっかりと空いていた穴。それが、今回の約4週間弱の滞在を通してだいぶ埋まったような気がします。
ちなみに(毎日のように周りから聞かれるので)今回取材した200軒以上のスポットから、私の個人的なオススメをいくつか。High Water(ダルストン)、Termini(コヴェント・ガーデン)、The Clove Club(ショーディッチ)、Riverford at the Duke of Cambridge(イズリントン)、Maddy’s Fish Bar(ニュー・クロス)、The Palomar(ソーホー)……止まらないのでこの辺で。どんなお店かは本誌でごらんくださいませ。
From Editors 2
ロンドンはおいしい。ロンドンは愉快だ。
私が前回ロンドンに行ったのは、もう5年前のこと。全体的に、おいしいという感覚とはほど遠い印象を得て帰ってきました。旅の思い出の善し悪しって、食体験によるものが多いですよね。噂に違わず、やっぱりイギリスのごはんは難しい……なんとなく、また行きたいという気持ちを抱けずに遠ざかっていました。しかし、今回の特集を作るにあたり、現地スタッフから集まったネタに、食べもの関係が多いこと、多いこと……。
果たして、3年前のオリンピックを経て、あるいは昨今の好景気のせいでロンドンの食事情は、激変を遂げていたのでした。チーズやパン、ビールなどの工房が集まる高架下〈Spa Terminus〉では、土曜日だけ一般公開するマーケットで買い食いしながらそぞろ歩き。二ツ星レストラン〈Dinner by Heston Blumenthal〉では、14世紀のリチャードII世の料理長の献立をはじめ歴史的な文献からひいたレシピを、現代の技術を使ってモダンに仕上げたお皿の数々に驚き。そして極めつけに、シェフと舞台美術家によるサパークラブユニット「Art of Dining」の劇場型ポップアップレストランで大はしゃぎ。「Art of Dining」1月のテーマは、キャンプ。キャンプサイトに見立てた会場で、キャンプ料理を食べながら、キャンプリーダー(司会者)の誘いで、歌を歌ったり、影絵の余興を見たり……。そういえば、ロンドンは舞台芸術の都でもありました。日本では、ちょっと照れちゃうような演出でも、非日常感を楽しく味わえる食体験でした。
こんなふうに、どんなお財布事情でも楽しめる、ハイ・アンド・ローに加え、ロンドンの食には、エンターテインメントの要素も、ふんだんに盛り込まれていたのでした。そう、ロンドンはおいしく、愉快な街だったのです。
さて、今回の特集、このようにひとつひとつ濃い〜コラムが101本! もちろん、取材で行った私自身も全部体験できたわけではありません。ほかの担当者のネタ、どれも面白そう過ぎる!ということで、ゴールデンウィークか夏休みには、この1冊を携えて、再訪したいと思っている次第です。