From Editors No. 799 フロム エディターズ
From Editors 1
新しいものと同じ目線で、
古いものと付き合いたい。
お気づきの方もいると思いますが、『尊敬できる骨董品』特集は、おととし、昨年と発売した『尊敬できる日用品』という日用雑貨の特集が元になっています。朝、目が覚めて水を飲むグラスのように、普段何気なくつかっている日用品こそ、愛着をもって尊敬できるものを選びたい。そんな一文ではじまる企画でした。表紙は同じイラストレーターのノリタケさん。特集の構成も踏まえたところがありますし、親戚のような兄弟のような存在が、この特集です。
そもそも「新しいものと同じ目線で、古いものと付き合いたい」と思っていました。そこで今回、この骨董品特集と同じ日に、2回分をまとめたムック『合本・尊敬できる日用品』を発売しました。骨董品と日用品、お互いがお互いを補足してくれたら。
『尊敬できる骨董品』は、生活に即した「生活骨董」という考え方もあるのではないか、そこから始まった骨董品入門です。初心者にやさしい店があると聞けば行ってみる、京都ならここを訪ねるべしと聞けば、おそるおそる扉を開け……といったことを、繰り返し繰り返し。本誌で紹介しているさまざまは結構な数、自分が体験したそのままだったりします。
古いものにはあらかじめ時代をくぐり抜けてきた強い力が宿っている。求められて消えなかったもの。「残したい」と人に思わせてきた力がある。(平松洋子さん/エッセイスト)
長い時間が作り上げてきた質感が人の心を惹きつけるのは、古びていく過程で“自然”の姿に戻りつつあるからかもしれない。どこか自然の風景を眺める行為に近いのかもしれない。(『工芸青花』編集長・菅野康晴さん)
取材の中で、こんな素敵なことを教えていただくと、ますます自分の古いもの熱は続くような気がしています。たとえば「小皿一枚」でも、いろんなことを感じて考えられる。新たな生活の視座を教えてもらえたといいますか。
なんだかとりとめのない話になってしまいました。
From Editors 2
付き合い方も、
価値の基準もそれぞれ。
骨董は人なり、です。
今回の特集を担当するにあたり最初に読んだ本が、コピーライターの仲畑貴志さんが2000年に書いたエッセイ集『この骨董が、アナタです。』でした。
骨董蒐集の世界にずぶずぶとハマっていくなかでの悲喜こもごもを軽妙なタッチで語る名著ですが、このタイトルは仲畑さんが雑誌で白洲正子さんと骨董対談をすることになり、自分が持っていた古い徳利を見せたときに言われた言葉が元になっているとのこと。
骨董は人を表す、ということなのでしょうが、今回の特集の取材で、骨董店主やコレクターなど色々な方に会うなかで、私自身がもっとも実感したところでもあります。
モノを見て、その持ち主に会うと、初対面でもすでに知っている人のような感覚になったし、同じモノを好きだと思えたら、なんだか友だちになれそうな気すらしちゃうのでした。勝手に。
数千円のものから数百万円のものまで値段はバラバラでも、持ち主それぞれにとっての価値は平等で。骨董品との付き合い方、考え方、向き合い方……そこに、人となりが出るような気がします。
冒頭で紹介した本の著者、仲畑貴志さんにも今回会いに行きました。
御年67歳の仲畑さん。「いまはそれほど骨董に対して血眼になってないよ」と言いながら、最後に「お気に入りのぐい呑みを撮らせてください」とお願いすると、「やっぱ唐津かな。あっ、それとも白洲さんに譲ってもらったやつにしようかな。根来に載せて、撮ったほうがカッコいいんじゃない」と目をキラキラさせながら、モノを出したりしまったり。
「骨董は、人がオモシロい」というのが、私の結論です。