From Editors No. 803 フロム エディターズ
From Editors 1
全編『日曜美術館』でつくった
「語る」美術特集。
正しくなくても、自由に。
『日曜美術館』40年のアーカイブから特集をつくると決まったとき、正直途方に暮れました。なにせ放送回数2,000回を超えるわけですから、どこから手をつけていいのかすらわかりません。それでも、過去の放送を観まくるうちに特集の方向性は固まっていきました。根っこに据えた考えは、美術は鑑賞者にとっても「自由」なものであるということ。
例えば、サルバドール・ダリを扱った2006年の放送には女優の岸惠子さんが登場していました。岸さんは、ある年の夏、ダリと妻のガラの元で一緒にバカンスを過ごしたことがあります。直接会ったダリは奇才のイメージとは遠い「普通のおじさん」だったそうです。ただ、その場に知らない人が一人でも入って来たり、記者がいたりすると、突然あの芸術家然とした“ダリ”に変貌するのだとか。
そして、妻のガラは、ダリが作品の中で聖母として描くなど、創作におけるミューズ的存在として知られています。しかし若い愛人をつくり、ダリの元を離れていってしまう。ダリはその喪失感をまた創作につなげていきました。これについて「ダリ、ガラのことを深く愛していたのね……」というのが、一般的解釈、定説だと思うのですが、岸さんはそれに疑問を呈します。「ダリは本当にガラを愛していたのかしら」と。
ガラに対するあまりに強すぎる固執、神格化をダリの作品に見た岸さんは、そこにダリの自分自身への“演出”を嗅ぎ取ったようです(はっきりそうとは言いませんが)。実際に画家に会ってその性質を目にしているからこそ、そして女優という仕事ゆえの視点だとは思いますが、そう想像して作品を見てみると、また違った趣が加わります。
別の放送回では、手塚治虫さんが源氏物語絵巻を、鳥獣人物戯画と比して「面白みがない」とバッサリやるし(国宝なのに!)、佐藤可士和さんは尾形光琳の紅白梅図屏風を「光琳にとって梅は不要だったんじゃないか」と推察します(紅白梅図なのに!)。
正しい正しくないではありませんが、彼らの言葉は、私たちに美術に対する自分では気づけなかった視点を示してくれると感じました。それは今でも40年前でも同じことで、『日曜美術館』はいつの放送を切り取っても“新しい”のです。
From Editors 2
日曜日は、みつけよう、美!
みなさんが、美術館に初めて行ったのは、いつですか? 私の美術館原体験は、小学4年生の時、図工の課外授業で行った、ブリヂストン美術館でした。モネ、ルノワール、スーラ……当時はまだ「印象派」という言葉も知りませんでしたが、なんだかフワフワとしたパステルの色調が放つ、優しい空気にすっかり魅了され、床に座り込んで、必死で感想を書き留めたのを覚えています。
そのブリヂストン美術館が5月半ばでリニューアルのための長期休館に入ると聞き、久しぶりに行ってみました。訪れたのは、もちろん日曜日です。コレクションのハイライトを集めた展覧会は、長蛇の列ができる盛況ぶり。雑踏の中ではありましたが、久しぶりに見た名作の数々は、当時と変わらぬ美しい光を湛えていました。
さて、館内を進んでいくと、展示室の一角に、黒山の人だかりが。見れば、所蔵作品や作家について『日曜美術館』で取り上げられたダイジェスト映像を放映しているコーナーでした。現在、『日曜美術館』の放映開始40年に合わせて「みつけよう、美」キャンペーンを展開しており、全国の110館でダイジェスト映像を放映しています。今回、BRUTUSの『日曜美術館』特集では、その中から40館を選び、各館1点ずつ、40作品をピックアップし、解説を加えたBook in Bookを作りました。よく知られた名作も、知る人ぞ知る作品も。回を重ねた番組ならではの、多彩なラインナップになっています。
美術作品が並ぶ特集になった今号ですが、せっかくの休日に家族やパートナーと美術館を訪れるなら、海とか緑とかも楽しみたいよね! と、写真家の若木信吾さんに、お出かけ気分を盛り上げる素敵な写真を撮っていただきましたので、こちらもお見逃しなく。