From Editors No. 807 フロム エディターズ
From Editors 1
「石を見た時、
それをただの石と決めつけることなかれ」
『約束建築』の取材をしていて、むかし自分が編集した写真家・平野太呂さんの書籍『東京の仕事場』のことを思い出した。このコラムの見出しにした「石を見た時〜」は、その本で平野さんがアーティストの古賀充さんについて記した文章からの引用です。古賀さんは自宅近くの川や海に落ちている石を素材に、研磨するなどし美しいカタチの作品をつくる方で、平野さんの言葉をさらに借りると、「既にそこにあるもの」を「少し変化させる」という考え方、を持っている。
このところ次世代を中心にして、建築的な視点から面白いリノベーション作品を発表する建築家が増え、今回その何組かと知り合うことができました。浜松を拠点にする403architecture [dajiba]は、「マテリアルの流動」という考えからとてもユニークな作品を発表する3人組。天井を解体して出た廃材を細かくしその部屋の床材にしたり、別な場所に廃棄されていたブラインドを織り込んで新しい表層の壁としたり。マテリアル(物質)を壊し、その素材であたらしい別の何かを作るという循環。そこで先述の「石」の話をふと思い出したわけです。畑は違いますが、既存のものをどう見るのか、ただそこにあるものをどう捉えるのか。リノベーションにはこの部分の面白さが確実にあると思います。
今回の特集は、注目の建築家10組に実際に家のリノベーションをお願いできるという企画ですが、一方で建築家たちが「既にそこにあるもの」をどう考えているか、そこに思いを巡らすいい機会でもあります。そんなことを真面目に考えるなんて、普段の生活でそうそうあることではありませんから。リノベーションそして建築とは、ああ本当に豊かな世界なんです。
From Editors 2
家をつくるということ。
つなげていくということ。
学生の頃から20年、賃貸マンション暮らしです。家を買うことも、ここ数年考えてはいるのですが、なかなか踏み切れないでいます。マンションなのか一戸建てなのか、立地や間取りなどの条件を検討しつつ、もちろん予算にも限りがあります。家族構成だって、将来的に子供ができるかも、親を呼んで一緒に暮らすかも、奥さんに愛想尽かされたら再独身もないとは言いきれないし……と考えているうちに、はっきり言えば面倒になってしまい、ずるずると先延ばしに。だって、家を買うというのは、一生のお買い物、いわば「人生のゴール」なのだから!
と、考えていた自分がいます。肩の力入りまくり。ただ今回の特集で、建築家の方々の話を聞いているうちに、少し肩コリがほぐれてきました。家は「買う」以前に「つくる」ものであるということ。業者や建築家にまるっとお任せではなく、自分の思いを形にするために、ときに手も動かすことで、建築を自分の中に取り入れることをすべきなのだと気付いた次第。それを一緒になって考えてくれる、自分に合う建築家を選ぶということなんだなと。
家を買ったあとに暮らし方が変わるなら、リノベーションをすればいい。自分の人生の移り変わりと共に、家も姿を変えて次の時間へとつながっていく。そう考えられるようになったら、家を買うことに少しビビらなくなれた気がします。今から急いで物件を買ったら、今回の企画の応募期間に間に合うかしらん?