From Editors No. 817 フロム エディターズ
From Editors 1
漫画と、テレビと、文芸と。
普段、漫画を読まない僕が、「漫画ブルータス」を作りたいと思ったキッカケは2つある。ひとつは、NHKのテレビ番組『浦沢直樹の漫勉』。漫画家の浦沢直樹さんが、人気の漫画家の創作の現場を同じ漫画家の視点から切り込む番組で、ここで言葉を使って説明するよりも何十倍も何百倍も面白く、放送を心待ちにするという久しく持ち得なかった感情を思い出させてくれた番組だ。この番組の放送作家の倉本美津留さんとは僕が大学生の頃から親しくさせていただいていて、「やっぱり倉本さんは面白いことを手がけるなあ」と感心していた。そんな矢先、都内のあるイベントで倉本さんと偶然出会った。これは「面白い番組をありがとう」の気持ちを伝えるチャンスとばかりに、一方的に自分ながらの番組の感想と次の放送への期待を伝えた。すると、倉本さんから「何か一緒にできるといいよなあ」と一言。一緒に……。実は、この出会った日の翌日に西田編集長と次に僕が参加するブルータスの特集内容を決める会議を予定していた。悶々としていた頭の中に倉本さんの一言によって一筋の光。ブルータスの漫画特集。倉本さんにまたもや良いものをもらってしまった。そして、もうひとつのきっかけは、以前、僕が参加させてもらった『文芸ブルータス』(2012年12月15日号)。文芸誌8誌を横断して、1度きりの文芸誌を作った野心作。この本ができた時、「この特集の漫画版ができると面白いかもね。難しいと思うけど」と担当編集者と話していた。本の魅力を伝えるんだったら、言葉で綴られている物語を読んで欲しいし、漫画の魅力を伝えるんだったら、画で綴られている物語を読んで欲しい。ある意味、現物主義。そんなことから、この本は250ページを超える、おそらくブルータス史上最多ページ数の号となった。こんな2つのきっかけからスタートした『漫画ブルータス』。漫画をあまり読まなかった僕は、漫画雑誌を数冊購読するようになり、浦沢さんと倉本さんに教えてもらった過去の名作漫画をひとつずつ読破して行っている(特集ではふたりの対談が計16ページ掲載されています)。すっかり漫画読みになってしまった。「漫画ブルータス」読前読後はきっとこんな感じ。漫画の魔力。漫画の凄さ。漫画の面白さ。その一端を「漫画ブルータス」で、ぜひ、体感してほしい。
From Editors 2
漫画の醍醐味を知るには、
まずは黙って読むことから。
漫画の魅力を伝えるベストな方法とは? 今号を担当して、まず最初に直面した課題です。そこで、ブルータスのバックナンバーにヒントがないか、過去の漫画特集を読み返してみることに。何冊か集めた中に、王貞治と長嶋茂雄がバットを構える表紙の号がありました。横尾忠則さんがカバーを手掛けた1999年8月1日号です。
「死ぬまでマンガを読みたい。」という特集名がつけられたその号を開くと、30を超える名作漫画の“名シーン”が4〜8ページずつ再録されていました。迫力のある画、大胆なコマ割、印象的な言葉が次々と現れます。読み終えたときには「何だか漫画ってすごいぞ」と思っている自分に気がつきます。漫画の魅力を伝えるには作品を読んでもらうことが一番。これが今回の漫画特集において私が出した答え。『文芸ブルータス』にヒントを求めた担当者とも意見が合致した瞬間でした。
1999年のブルータスは名シーンを切り取りました。今号では作品のストーリー展開を含めた魅力を実感してほしいと考え、1話〜2話分を再録することにしました。漫画家のみなさん、各出版社の担当編集の方々にご協力をいただき、全部で8作品の「2016年、いま読んでおきたい漫画」を再録することができました。
私自身、小・中学生のときは日常の一部だったのに、いつの間にか縁遠くなってしまった漫画。大人になって改めて漫画を読むと、行間(コマ間?)を読む楽しさが味わえたり、壮大でスリリングなストーリー展開や昔は見たこともなかった緻密な描き込みに舌を巻いたり。刷り上がった今号を改めて読んで思います。やっぱり漫画はすごいぞって。