マガジンワールド

From Editors No. 823 フロム エディターズ

From Editors 1

家を特別な場所にするために。
ふたつの考え方。

名作椅子や、ヴィンテージ家具といった華々しいものは何一つないのだけれど、そこにおいてあるものすべてについて、それぞれの履歴を一時間話すことができる。
都会に住むことにこだわりがある、だからこそ、その場所にある住まいは、コンパクトで機能的であればいい。余白の部分は、週一回、車で一、二時間かけて訪れるもうひとつの住まいに任せる。

住む場所に対するこだわりは、ひとそれぞれ。前者は、9年間居住空間学の取材で追いかけてきた達人たちの住まい。今回であれば、〈スターネット〉ディレクター・〈トネリコ〉主宰のはったえいこさんや、元鉄工所を大胆にリノベーションした、高下隆次さんの家。
後者は『居住空間学2016』づくりにあたってのリサーチの中でてきたキーワード〈もうひとつの家〉を手に入れた人たち。たとえば、小説家の原田マハさん、〈ドワネル〉オーナー・ビオトープ代表の築地雅人さん。ひとつの家に、居心地、趣味性、機能性などすべてを求めない。別荘というほど大げさなものではなく、二拠点三拠点をもって、役割分担させる。特別すぎない、特別な場所作りをしている人たちとの出会いがありました。

今年で9年目となる〈居住空間学〉、これまでのシリーズに負けず劣らずスゴい部屋はたっぷりと。でありますが、暮らしのスタイル=【家】というものをどうとらえていくか、あらためて考えるきっかけとなるような〈もうひとつの家〉を持つ人たちの話も聞きに行きました。

インテリアの参考に、家づくりの参考にはもちろん、家族の変化に伴う今後の暮らしのことや、もしかしたらお金とのつきあい方も。夢と現実を同時に想像できるような本になったと思います。

 
●杉江宣洋(本誌担当編集)
〈スターネット〉の馬場浩史さんにはとてもお世話になった。2009年の表紙、星恵美子さんの家の撮影。2013年には亡くなる3ヶ月前に、病をおして(でも、そんなふうには微塵も見せず)、ご自宅も撮影させてもらった。馬場さんは、僕ら取材陣の後押しをいつもしてくれた。そして今回は、馬場さんの薫陶をずっと受けてきたはったえいこさんの家を取材した。馬場さんのセンスとこだわりを身近で見てきた彼女が作った家は、優しい空間なのだけれど、一分の隙もない、だめなものが何もない空間。居住空間学史上でも、最高部類にはいるスゴい家でした。馬場さんの遺伝子はこうやって、脈々と続いていくんだと。
〈スターネット〉の馬場浩史さんにはとてもお世話になった。2009年の表紙、星恵美子さんの家の撮影。2013年には亡くなる3ヶ月前に、病をおして(でも、そんなふうには微塵も見せず)、ご自宅も撮影させてもらった。馬場さんは、僕ら取材陣の後押しをいつもしてくれた。そして今回は、馬場さんの薫陶をずっと受けてきたはったえいこさんの家を取材した。馬場さんのセンスとこだわりを身近で見てきた彼女が作った家は、優しい空間なのだけれど、一分の隙もない、だめなものが何もない空間。居住空間学史上でも、最高部類にはいるスゴい家でした。馬場さんの遺伝子はこうやって、脈々と続いていくんだと。



From Editors 2

2番目だけど、特別です。

「家のことは、2番目になっちゃうわね」

特集の巻頭で紹介しているクリエイティブディレクターの小池一子さんは、家と自分との関係を話しながら、カラリとそう言いました。1970年代から第一線で活躍し、今春から十和田市現代美術館の館長も務めるなど、80歳を前に益々多忙を極める彼女にとって、自宅の普請あれこれは、どうしても「2番目」になってしまうのだとか。それでも、どうでもいいってわけではなくて、人生の節目節目に手を入れ、思い入れのある家具やアートを配し、共に成長してきた生き物のような「大切な拠りどころ」。付かず離れず、じゃないけれど、その家との付き合い方のバランスが素晴らしく、改めて学ぶところ多し、の取材でした。

小池さんに比べて語るのもおこがましいけれど、家についての特集を担当している私もまた、家のことは、2番目になりがちです。そのへんの箱で代用している収納ボックスのことも気になってはいるものの、それどころじゃないんです今、みたいな日々の繰り返し。さあ、やるぞと取り掛かるのに何年もかかったりします。でも、そうやって、ちょっとずつでもいいから、我が家にときどき目を向けて、整えていくことが、「家の外」での自分を整え直すことになるんだなあ、と改めて思う次第です。

家は好きだし、特別な場所だけれど、家のことにばかり、かまけてもいられない。逆もまた真なりで、家のことにばかり、かまけてもいられないけど、やっぱり家は、自分にとって大切な、特別な場所。

今年で9年目になる「居住空間学」。今回訪ねた家とその住人の関係もまたいろいろです。100%の完璧は求めない人、自らの頭の中にある壮大な構想に向かって20年以上改装し続ける人…… 1年中家づくりとはいかなくても、年に1度は家のこと、その「いろいろ」をぜひ参考にしてみてください。

 
●岡野 民(本誌担当編集)
今回は「もうひとつの特別な場所」として、自宅以外の別荘やアトリエも紹介。写真は、琵琶湖畔にウィークエンドハウスを建てた郡司昌彦さんと愛犬ビリー。建物は倉庫用のキットハウスを応用するという合理的な考え方で、低コスト。でも郡司さんがそこで過ごす時間はとびきり贅沢なものに思えました。
今回は「もうひとつの特別な場所」として、自宅以外の別荘やアトリエも紹介。写真は、琵琶湖畔にウィークエンドハウスを建てた郡司昌彦さんと愛犬ビリー。建物は倉庫用のキットハウスを応用するという合理的な考え方で、低コスト。でも郡司さんがそこで過ごす時間はとびきり贅沢なものに思えました。


 
ブルータス No. 823

居住空間学2016

693円 — 2016.05.02
試し読み購入定期購読 (33%OFF)
ブルータス No. 823 —『居住空間学2016』

紙版

定期購読/バックナンバー

読み放題※ 記事の一部が掲載されない場合もあります。
  • buy-dmagazine
  • buy-rakuten-2024

詳しい購入方法は、各書店のサイトにてご確認ください。書店によって、この本を扱っていない場合があります。ご了承ください。