From Editors No. 826 フロム エディターズ
From Editors 1
結局、音楽なんて、
聴いてみなくちゃわからない。
だから、たくさん出逢いたい。
中学生の頃、BOOWYが大好きでした。でも同じくらいTM NETWORKも好きでした。中1の夏、お前はいったいどっち派なんだよと詰め寄る友人たちを前にしながら、尾崎豊だけを愛しているAくんはこんな経験したことないんだろうな、とぼんやり思っていました。
あの時代でもそうだったので、私は今でも、どのアーティストがイチバン好きですかとか、どのジャンルがイチバン好きですかとか質問されると答えに窮します。思えばその雑食さが編集者への道を歩ませたのかもしれませんが。音楽の好みって、もっと気分とか体調とか温度とか湿度とかなどに左右されるものだと思っています。だから音楽は私たちのそばにいつもあるのではと。そしてその風潮は、テクノロジーの発達で昔より多くの音楽に気軽に触れられるようになった今、さらに加速している気がしているのです。
今回の特集は、音楽を最も欲する夏という季節に向けて、読者の方々がたくさんの知らなかった音楽にふと出逢えるような構成を目指しました。スタッフたちと、ああでもないこうでもないとさんざん構成をこねくりまわした上で行きついた、どシンプルな結果でもあります。なので紹介されている全ての音楽を気に入るなんてことは多分ないでしょう。でも、この中から皆様の来るべき夏のヘビーローテーションが見つかれば、私たちにとってこれほど嬉しいことはありません。
あ、先程の話ですが、結局「ONLY YOU」も「Get Wild」もオレは甲乙つけられないんだと友人たちに必死に伝えたのですが、実は菊池桃子の「Say Yes!」が今イチバンのお気に入りだとは口が裂けても言えなかったことを追記しておきます。
From Editors 2
聞いて、夏気分。
スチャダラパーの「サマージャム’95」を聴くといつでもその頃の夏を思い出す。まだ都内の高校に通っていて、その頃にちょうどヒップホップが流行っていた。たまにまわってきた「パーティ」は半強制的、半背伸び気分で夜の街にくり出した。クラブの壁にあった<ドクター・ドレ>のフライヤーを見て、サッカー・ブラジル代表にいたソクラテスのように、二足のわらじを履いた医者ラッパーでもいるのかと思った。1996年7月に行われたヒップホップのイベント「さんピンCAMP」は観戦した友人の熱っぽい語りに、行けばよかったと後悔し、<MURO>のミックス「Diggin’ Ice ’96」はカセットテープが伸びるほどよく聴いた。
自分より年の若いライターの国分くんには夏気分の曲には “エモい” ものも含まれると言われて言葉の定義がいまひとつわからないままに大いに賛同したけれど、20年近く前の曲を聞きながら過ぎ去りし夏を1人思うのはエモいというより少しキモいかと、My Summer Tuneもそろそろ更新すべく、まだ二十歳そこそこのメンバーで構成された<D.A.N.>の取材に同行した。彼らが昨年のフジロックへと向かうクルマで聴いていたというのが「Diggin’ Ice ’96」だったのは奇遇、今年の夏には20年ぶりに「さんピンCAMP」も開催されるので、あの夏を取り戻しにいくべきか。フジロックも今年で20周年というから、泥酔した公園で第1回目のチケットを失くしたのも同じ夏だったんだなと思い出した。