マガジンワールド

From Editors No. 832 フロム エディターズ

From Editors 1

御意見無用! 大切なことはデコトラに学ぶべし。

今回の取材で特に印象的だったのはデコトラの取材。2016-17秋冬GUCCIのプロモーションビデオで、モデルを乗せて歌舞伎町の周りを走るあの車体だ。オーナーの関野和也さんは物腰柔らかく、取材チームが恐縮するほど謙虚な方。18歳で免許を手に入れた直後から、トラック野郎一筋で生きてきた。3台目となるデコトラ「美咲嬢」は、電球の配線から車内外の装飾に至るまで基本はDIYで仕上げているという。10年間かけてコツコツ作りあげたオリジナリティの塊なのだ。乗り続ける限り常に手を入れ続けるし、「完成」はないという。自分たちが作る車両をアートトラックと呼ぶ理由が腑に落ちたし、心からカッコイイと思えた。

2007年に写真家の田附 勝さんが『DECOTORA』という写真集を出し、海外でも広く売られたと聞く。当然、GUCCIのクリエイティブチームは目にしていたのだろう。今回のアートトラックを間近で見たとき、アレッサンドロ・ミケーレに会ってインタビューしたときのことを鮮明に思い出した。彼の両手を飾る指輪やブレスレット。ショールームの過剰なまでの装飾。エネルギーとカルマの話。色についての言葉…。目指す方向性は違っても、好きな事を突き詰めるストイックさや、自分の感覚を信じて極限まで飾り付ける美学は、同じ匂いがする。

ちなみに、誌面でも書ききれなかった情報をここで書いておきたい。関野さんが所属する全国哥麿会は、菅原文太主演の映画『トラック野郎』シリーズに車両協力したことで知られる、由緒正しいアートトラックの愛好会。現在は交通遺児チャリティや災害支援ボランティアに力を入れているとのこと。トラック野郎は強面の人が多いという先入観があったけど、どこまでもピュアで心優しかった。反省!

 
●︎︎鮎川隆史(本誌担当編集)
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ページでは紹介できなかったが、助手席はなんと畳。壁には襖や羽子板なども。
ページでは紹介できなかったが、助手席はなんと畳。壁には襖や羽子板なども。



From Editors 2

語りすぎるデザイナーとの出会いが一つの企画を生みました。

さまざまなブランドで起きるデザイナーの交代劇、see now, buy nowをはじめとしたコレクションの形式の変化などなど。一つの流れや大きなトレンドでファッションを語るのが難しい昨今、ヒト、モノ、コト、大小さまざまなニュースに注目し、取材したのが今回の「ファッションコラム50」。面白い人にもたくさん会いました。中でも印象的だったのが、〈カンタータ〉デザイナーの松島紳さん。昨年ブランドを立ち上げたばかりの弱冠26歳。失礼ながら年相応に見えない落ち着いた風貌。初めてお会いした時に、自身の作った自慢の服をうっとりとした表情で見つめ撫でながら、流れるように淀みなく、その特徴を自信たっぷりに語ります。話に聞きいれば聞き入るほど、目の前の松島さん、何かに似てるなあ、と。そうです、あれです。よくスーパーとか、ホームセンターで見かける、ベテラン実演販売士さんのそれなんです。聞いてると、いつの間にか欲しくなってくる不思議。もちろん、服自体もすごいんですよ。松葉閂とか、手もみだまとか、専門用語だらけですが、要は日本の職人の技術を詰め込んだ贅沢な仕立て。「服は着ればわかる、だから語ることはしない」という信念のデザイナーさんも多いと思いますが、松島さんは全く別のアプローチ。言葉の力で買う気にさせる、そんなデザイナーもまたありかな、というわけで、「語りどころだらけの服」という、一つの企画が生まれました。自慢のジャケットについて語りつくしています。ぜひ、誌面でご確認を。今回の特集では、他にも個性が爆発する新世代のデザイナーを数多く紹介しています。新しいファッションのウネリをぜひ誌面で感じてみてください。

 
●星野 徹(本誌担当編集)
「この袖裏。腕を通してみてください。気持ちいいですよ」と松島さん。自慢のジャケットは「シャンパンジャケット」と命名。その由来は誌面でご確認くださいね。
「この袖裏。腕を通してみてください。気持ちいいですよ」と松島さん。自慢のジャケットは「シャンパンジャケット」と命名。その由来は誌面でご確認くださいね。


 
ブルータス No. 832

ファッションジャーナル2016

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