From Editors No. 834 フロム エディターズ
From Editors
美術館で観るアートと、
共に暮らすアート。
その違いはどこに?
日本人って美術館への来場者は多いわりに、アートマーケットがなかなか育たないという状況がありました。アートを鑑賞する知的好奇心、文化的素養はあるけれど、買うとなると急に「お金持ちの道楽!」と思い込んでいるところがあるのかも。もちろんアートを買おうと思うと、それなりのお値段はするので、間違いではないのですが。
ただ道楽は道楽であっても、今回アートコレクターの方々を取材していて気付いたのは、もうちょっとドロドロしたものがあるぞと。それは業であったり、執着であったり、夢であったり、愛というのかもしれず。
あるコレクターは元々アートにとくに興味もなかったけれど、一つの作品に出会ったときに「その場を離れられなくなった」と語っていました。離れられないのであれば買うしかない。安くはなかったけれど、清水ジャンプでえいっ!と購入して、その作品を部屋で日々観続けていたら、自分とアートとの距離が変わることに気づいたそうです。作品への理解と共感がぐっと深まり、その作家の成長を我が事のように期待するようになる。それ以来ずぶずぶとコレクター道にハマっていったとのこと。
この衝動と体感を知っている人は、やはりアートと「暮らしたい」と思うようです。それは美術館で作品を鑑賞するのとは、まったく別の体験で。「アート好き」を自認するなら、一度えいっ!と買ってみると、アートの新しい楽しみというのが見えてくるかもしれません。
●︎︎中西 剛(本誌担当編集)