いわゆるネイチャーフォトだけじゃない、自然を被写体とした写真の特集。 From Editors No.853
From EditorsNo.853 フロム エディターズ
いわゆるネイチャーフォトだけじゃない、
自然を被写体とした写真の特集。
アメリカのランドスケープ写真の巨匠、アンセル・アダムス(1902-1984)はこう述べている。「写真は撮るものではなく、創るものだ」。ネイチャーフォトというと、なにか自然がそのまま写し取られているかのように思うが、実はそんなことはない。実際、アダムスの有名なヨセミテのハーフドームの写真は、赤いフィルターを使い、背景に広がる青空を真っ黒にしたことで、そそりたつ岩壁のソリッドさがより際立つことになっている。
モノクロフィルムで壮大なアメリカの風景を撮影したアダムスと対照的なのが、同時代にカラーフィルムを用い、完璧な構図でアメリカの野鳥を撮ったエリオット・ポーター(1901-1910)だ。ダイトランスファープリントという特殊な技法を用い、たいへん色鮮やかで美しい写真を残した。2人は交流もあったが、アダムスは神経質、ポーターは穏やかな人物だったそうで、写真だけじゃなく、性格も対照的だったというのが面白い。
特集を自然写真入門としたが、いわゆるネイチャーフォトグラファーではない作家の写真も積極的に紹介している。自分の牧場で飼っていたカマキリを撮影したというラリー・フィンク(作品タイトルが秀逸で、“PRIMAL ELEGANCE”と名付けた)や、都市の中の自然をモノクロフィルムで抽象的に切り取るヨヘン・レンペルトなど、2人は主にアートのマーケットで活躍している写真家だ。そしていまでは伝説的な写真家と言っても過言ではないピーター・ビアード。
アメリカ上流階級の出身であり、名門イエール大学卒業後にケニアへと移住。まだコロニアル時代の気配が残る最後のサファリを記録した写真家がピーター・ビアードだ。巨大なワニの口の中に下半身をすっぽり入れながら悠然と日記を綴る男の写真は見たことはないだろうか。端正な面立ちとワイルドな暮らしからメディアでは知的なターザンと称され、アメリカに戻ればアンディ・ウォーホルを筆頭とする、60年代もっともヒップな社交界の面々が彼を取り囲んだ。美女と猛獣に囲まれながら優雅なロマンスとゴシップに満ちた人生。男ならきっと、みんなビアードになりたいと思う。
今回の特集は写真の特集であるが、同時に自然の特集でもあると思っている。古今東西、写真の眼差しを通じて、自然を楽しむ見方や愛でる視点を提供してくれるような作品を紹介したかった。自然と写真、その両方の世界に興味を持つきっかけになれば幸い。きっと思っている以上に、自然は美しいはずだから。