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遙かなる自生地へ。 From Editors No.872

From EditorsNo.872 フロム エディターズ

遙かなる自生地へ。

ダイヤモンドの台地を意味するシャパーダ・ディアマンティナは、ブラジルの秘境と呼ばれる。その昔、ダイヤモンドの採掘で繁栄したこのエリアは欧米では人気の観光スポット。壮大なテーブルマウンテンに、植物のタンニンにより紅茶色に染まった川、透明度が非常に高い青い泉、そして固有の生態系。植物好きにとっては、生涯で一度は訪れてみたい、珍奇植物のホットスポットでもある。

「ほら、あれ! ペンナエじゃない?」

片側1車線の幹線道路を、最初の宿泊地であるムクジェの町に向けて走っているところだった。メルセデスのスプリンターは車体が大きく、総勢7名という雑誌の取材にしては大げさな人数のスタッフも余裕で収容できるサイズだった。〈スピーシーズ ナーサリー〉の藤川史雄さんは憧れのシャパーダに来れた嬉しさのせいか、空港からずっと、車窓に張り付くようにして外を眺めている。

その声によって車は路肩に停車した。ドアが開き、転がるように外に出ると、そこには草がまばらに生えた荒涼とした大地が広がり、向こうには遠くテーブルマウンテンを眺めることができた。ほどなくして「あったあ!」という咆哮にも似た雄叫びがあがると、そこにはホヘンベルギア ペンナエが、赤い土の上に黒々と壺型の草姿を現していた。生命力に満ち溢れる野生のあるべき姿をしたそれは、植物というより爬虫類か昆虫のようでもある。普段はポットに入った姿で見ていた憧れの植物が地面に生えていることの「不思議」に素直に驚いてしまう。

園芸家が目指す植物の究極の形状は、その植物の生まれ故郷である自生地にある姿だ。普段、頭を悩ます育成環境の答えも全てそこにある。植物を通じてエキゾチックな異世界へと思いを馳せることは園芸の楽しみのひとつ。もし自生地に行くことができたなら、光の色から空気の匂いに至るまで、頭で思い描く景色の解像度は格段にあがる。それは、植物を眺めるのがこれまで以上に楽しくなる瞬間でもある。

●︎︎︎町田雄二(本誌担当編集)
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自宅のホヘンベルギア レオポルドホルスティとシャパーダ・ディアマンティナで撮影したホヘンベルギア レオポルドホルスティ。自生地の株はさすがに引き締まった素晴らしい砲弾型。自宅のレオポルドホルスティも藤川さんに譲ってもらったダン・クローンと呼ばれる特別な株ですが温室もないので少し開き気味。箱庭ではないけれど、鉢に収まっている、という魅力もあるように思います。


ブルータス No. 872

新・珍奇植物

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