マガジンワールド

悩んだら、困ったら、マンガを読もう! From Editors No.937

From EditorsNo.937 フロム エディターズ

悩んだら、困ったら、
マンガを読もう!

昨年に続き、マンガ特集を担当することができました。嬉しい! 今回も、各界のマンガ読みが“好きで好きで好きでたまらない“マンガについて熱く語ってくれています。ブックインブック「頼りになるマンガ88。」では、8人のコンシェルジュが「世知辛い現実から思いっきり現実逃避したい」「どうしても挫折してしまうダイエットの味方は?」「パワハラ上司と戦いたい」など、22の相談事に応える頼もしいマンガを厳選してくれました。コンシェルジュの回答を読んでいるうち、「私も答えてみたい」という欲が沸いてきたので、以下数テーマに絞って選書してみました。正直、どのテーマでどの作品を選んでどんな紹介文を書くべきかまだまだ悩んでいるのですが、編集後記の締め切りが迫っているので、いったんこちらで決定としようと思います。…う~ん、沙村先生のマンガを挙げるなら『ベアゲルター』のほうが良かったかな、ジャンプ+の異色作『ハイパーインフレーション』も紹介したいな、う~ん……。

仕事に前向きになれません。
『猫背を伸ばして』押切蓮介
全1巻/フレックスコミックス
静かで美しく残酷な復讐譚『サユリ』、ゲーム好きを沸かせるラブコメディ『ハイスコアガール』、異色の漫画業界バトル『狭い世界のアイデンティティー』など幅広い題材で執筆を続ける押切蓮介先生ですが、売れっ子になる前には打ち切りに怯える日々が。この作品はそんな時代に描かれたエッセイマンガです。編集者からの「ネームつまんないよ」電話、人間性最悪な社員にネチネチされるブラックバイト、謎の心霊体験など、全編にわたってじわじわ苦しみ続ける押切先生のダウナーな日々はどこまでも暗いけれど、勢いある筆ペンの絵で描かれるとつい笑ってしまう。そんな彼に母親が投げかける「運とか不運なんて存在しないのよ? (中略)猫背を伸ばしてのびのび生きなさい」という言葉にはシンプルに励まされます。まずは背骨からしゃきっと前向きになってみると、いいことがあるかもしれません。

最近、恋の仕方がわからなくなった。
『私を連れて逃げて、お願い。』松田洋子
全3巻/KADOKAWA
恋のことは私も何一つわからないのですが(助けてくれ~)、どうしてもこの作品を紹介したかったので。松田洋子先生の漫画は、ファンタジーな題材でも、私たちが生きる現実のしょうもなさをきっちり描くところが大好きです。ドラマチックな題名の本作は、箱入り娘のヒメちゃんが王子様みたいな青年・オウジくんと出会い、2人の生活が始まる――という一見王道のストーリー。でも、ヒメちゃんの“箱入り”の実態は毒祖父母による過保護過干渉だし、オウジくんはなんやかんやで指名手配中だし、2人の生活♡といっても警察からの逃亡生活だし、立ち寄った海は濁って臭いし、たどり着くお城は汚いラブホテルだし、しかもそこで有り金全部盗まれるし……。“人生は童話のようにはいかない”というリアルを過剰なほどに見せつけてくれます。ただ、そんなドブみたいな状況だからこそ、ヒメとオウジのピュアさが却ってキラキラと光って見える。みっともないほど愛に必死な2人に、きっと背中を押されるはず。

圧倒的な画力のマンガに唸りたい。
『春風のスネグラチカ』沙村広明
全1巻/太田出版
絵がすごいマンガ、と言われてまず真っ先に思い浮かぶのが沙村広明先生の作品。もう、どの単行本でも大丈夫なのでバッと開いて一目見ていただければ凄さを感じてもらえると思います。細かいところでいうと、女性の手の甲から指にかけての絶妙に指先が反った形、絵画的なポーズのつけ方には毎度うっとりしてしまいます。『ハルシオン・ランチ』や『波よ聞いてくれ』など絵の巧さがギャグの切れ味を引き立てるコメディも最高なのですが、『春風の~』は1933年のロシアを舞台にした王道の歴史ロマン。車いすの少女・ビエールカとその従者であるシシェノーク、二人の目的は? 正体は? とある名家との関係は……? と、謎をあちこちに散りばめつつ、歴史上の実在した人物たちも登場する重厚なストーリーを支える画力をぞんぶんに堪能してください。

最近の面白いマンガを教えて!
『ワールドトリガー』葦原大介
既刊23巻/集英社
公式キャッチコピーは“遅効性SF”。異世界からの侵略者・ネイバーと界境防衛組織・ボーダーとの戦いを描くバトルものです。昨年と今回のマンガ号で紹介したマンガは外そうと思ったのですが、私にとっての「今一番面白いマンガ」を問われたら挙げざるを得ませんでした。すみません。語りどころが多すぎて途方に暮れてしまいますが、まずお伝えしたいのが戦闘シーンの素晴らしさ。多対多の戦闘を描く場合、一対一の戦闘を同時多発的に描く作品が多いと思うのですが、ワートリは違います。10人以上が入り乱れる乱戦を、地形や武器の種類、個々人の性格などの条件を踏まえた上で緻密に、鮮やかに展開する作者・葦原大介先生。いったい脳の容量が何テラあるのでしょうか。さらにマスコミへの対応、組織内での手回しなど、今まで少年漫画であまり描かれなかった非戦闘シーンも激アツ。もう、ボーダーのメディア対策室の仕事をさせてほしい。ボーダーの広報誌(そんなもんあるのか?)の編集がしたい。最近は「このキャラクター、こんな設定だったの!?」という初期からの伏線が明らかになったり(まさに遅効性)、組織内の隊がシャッフルされたドリームチームが結成されたりと読者に対してのおもてなしが手厚すぎる展開が続き、勢いは衰えるどころかますます加速するばかり。葦原先生が体調を崩されて休載になることもあるのですが、ファンとしては「葦原先生の健康が第一」、これに尽きます。これからも末永く、健やかに、最高に面白い物語を生み出していただきたいと強く強く願います。

●鴨志田早紀(本誌担当編集)
BRUTUS 937号:From Editors
おすすめの4作品です。ぜひ手に取ってみてください。


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やっぱりマンガが好きで好きで好きでたまらない

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ブルータス No. 937 —『やっぱりマンガが好きで好きで好きでたまらない』

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