マガジンワールド

Special Contents 喫茶店のA to Z。

喫茶店を喫茶店たらしめているものとはなにか? 知っておきたい、喫茶店の基礎知識。
ここでは、AからZまで26項目の中から、主な4項目を“抽出”してみました。

A

エイジングコーヒー
AGING COFFEE

日本の喫茶店文化を支えてきた
「熟成コーヒー豆」という存在。


ネルドリップで誠実に一滴一滴を抽出する、歴史あるコーヒー専門店でよく耳にする、「エイジングコーヒー」の名。かつては“オールドビーンズ”と呼ばれていたこの製造法の最大手が1949年創業の〈コクテール堂〉だ。「新鮮な豆を寝かせることで表面を覆う天然のワックスが取れ、空気が通りやすくなります。また豆に含まれるタンニン(渋味)が減少し、甘味とまるみが増します。時間が経っても味が崩れにくく、まろやかで、濁りのない味わいに仕上がるのが特徴」とは〈コクテール堂〉代表・林道男さん。

しかし、単に置けばいいというわけでなく、低湿度の場所で呼吸をさせながら適切に寝かせる必要があるため、〈コクテール堂〉では山梨・韮崎に立つ1,000坪の倉庫で約2年間熟成させている。環境と時間を要するこの贅沢な製法を貫いて半世紀以上。日本の喫茶店特有の「深煎り&ネルドリップ」文化を語るうえで不可欠な存在だ。

話を伺ったお店。

●コクテル堂コーヒー 二子玉川店/東京都世田谷区玉川2-21-1 二子玉川ライズS.C. タウンフロント6F。

 左/韮崎工場。標高500mの環境に作られた生豆熟成倉庫。右/新収穫豆(ニュークロップ)は、2年間寝かせると黄色みを帯びてくる。
左/韮崎工場。標高500mの環境に作られた生豆熟成倉庫。右/新収穫豆(ニュークロップ)は、2年間寝かせると黄色みを帯びてくる。
 
L

レジェンド
LEGEND

まさにリビングレジェンド。
100歳を迎えたコーヒー界の雄。


〈カフェ・ド・ランブル〉(p.84)の創業者・関口一郎さんは、常に探究心を貫いてきた人物だ。今年で御年100歳を迎えた今も、店に足を運び、若手の仕事ぶりを見守る。エンジニアの道から一転、学生時代より独学で研究していたコーヒーの店を西銀座に開いたのが1948年。友人の焙煎士が会社を設立したのを機に、自身も図面を引きともに焙煎機の開発にあたった。それが現在の大手焙煎機メーカー〈フジローヤル〉の前身〈フジ〉であり、そのとき作った焙煎機は半世紀以上経った今も現役だ。

コーヒーポットやミル、デミタスカップなど、道具類はほぼすべてオリジナル。豆は自身の倉庫でエイジングさせてから使用する。どこまでも独創的なコーヒーに多くの著名人が惹かれ、カウンターで店主と語らうことを楽しんだ。

日本のコーヒーがこれほど洗練され、独自の進化を遂げたのは、関口さんのような探求者がいたからにほかならないのだ。

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左/今も週に1度は焙煎室に立つ。今日はグアテマラの深煎りを。右/関口一郎さん。50年愛用する焙煎機の前で。
 


I

インテリア
INTERIOR

1980年代以降のイメージを確立。
一時代を築く琥珀のインテリア。


漆喰の壁、長い一枚板のカウンター。隠れ家のような小部屋が設けられ、家具はカフェチェアの代名詞でもある曲木椅子。フランスの田舎町にある一軒家をイメージしたという琥珀色の空間は、それまでの喫茶店のイメージを一新した。コーヒーは〈コクテール堂〉のフレンチローストをネルドリップし、〈ロイヤル コペンハーゲン〉や〈ウェッジウッド〉の食器で出す。こうした徹底したスタイルは、松樹新平という一人のデザイナーによって作られた。

1972年創業の六本木〈かうひいや カファブンナ〉、その3年後にオープンした原宿〈カフェ アンセーニュ ダングル〉を筆頭に、70〜80年代を中心に多くの店舗が誕生。贅沢に予算をかけた内装は、40年を経た今も色褪せない。「少し背筋を正しながら静かにコーヒーを飲む場所」という喫茶店の一つの原点は、ここにあるのだ。

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松樹新平氏が手がけた店舗の例。写真上から、長いカウンターが印象的な〈カフェ アンセーニュダングル 原宿店〉、奥に隠れ家のような小部屋を配した〈カフェ トゥジュール デビュテ〉(p.85)、〈CAFE 香咲〉(p.80)。
 
U

ユニオン
UNION

プロもアマも行けばうっとり。
そこは喫茶のサンクチュアリ。


かっぱ橋道具街のちょうど中ほどにある喫茶器具の総合商社〈ユニオン〉。喫茶店の経営者には広く知られる老舗である。〈大倉陶園〉のカップ&ソーサーや〈ラッキーウッド〉のカトラリーなど、店を開業するために必要なアイテムは一通り扱っているが、特に充実しているのがコーヒー器具。1階の入口エリアはコーヒーポットやミル、サイフォンなどが所狭しと置かれ、さらに焙煎機や水出しコーヒーなどはオリジナル商品を開発。ドリップの定番アイテム、〈タカヒロ〉のコーヒーポットの特注色の注文も受け付ける。全国の喫茶店を陰で支えるだけでなく、コーヒー愛好家たちの心を摑んで離さない存在なのだ。

ユニオン

1962年創業。商品は定価の2割引きの問屋価格で販売。向かいに同社の自家焙煎コーヒー豆とお茶の専門店あり。●東京都台東区西浅草2-22-6☎03・3842・4041。9時~18時(日・祝10時~17時)。無休。

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左/Rを描く外観。右上/右は〈タカヒロ〉のコーヒードリップポット9936円、左は特注色2万3328円。右下/コーヒー器具群。萌える!
 


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