Special Contents ご飯が進む、おいしい小説グランプリ。
食にまつわる本を扱う〈COOK COOP〉の鈴木めぐみさんが選ぶ「おいしい小説フルコース」を、“タベアルキスト”のマッキー牧元さんが味わうというこの企画。誌面では12の小説を紹介していますが、ここではその中から4つをご紹介。グランプリに輝いた「おいしい小説」については本誌にて!
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いとうせいこう
『スキヤキ』の
『スキヤキ』の
しゃぶスキ
スキヤキなしでは生きていけないと悟った主人公。各地のスキヤキを食べながら思考を重ねる日々を描く。全スキヤキストに贈る哲学書。集英社/品切れ。
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哲学するスキヤキ、表現したくなるスキヤキ。
とにかく全国の色々なスキヤキが登場するわけだが、このしゃぶしゃぶ屋が出す「しゃぶスキ」というのは、ぜひ食べてみたい。ごく薄い“網のような”牛肉でねぎやえのきを包み、溶き卵をつけて頬張るのだという。著者いわく、「白菜の繊維や春菊の苦み、ねぎの香りやえのきのジャクッとした口当り。それらを楽しんでいる限り、いくらでも酒がすすむような気さえするのだ」。ウマそう!
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村井弦斎
『食道楽』の
『食道楽』の
凱旋飯
料理上手のヒロインが、料理をしつつ蘊蓄(うんちく)を披露する明治期の大衆小説。和洋中華630種のレシピのほか、食文化も指南。岩波文庫/上下巻各1,100円。
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時代背景が隠し味。想像膨らむ、未知の牛丼。
凱旋飯とは日清戦争後に凱旋兵をもてなした料理。「牛肉を細かく刻んで味淋と醤油と水とで煮ておきます。その中から出た汁で牛蒡人参糸蒟蒻椎茸(しいたけ)竹の子簾麩(すだれぶ)なんぞの野菜を極く細かに刻んでよく煮ます。今度はその汁へ水を足して酒と醤油で味をつけて御飯を炊きます」。この味つきご飯の上に肉と野菜類をのせて食べるそうだが、上品な牛丼といった感じか。あれこれ想像するのも楽しい。
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森沢明夫
『ヒカルの卵』の
『ヒカルの卵』の
卵かけご飯
限界集落で養鶏場を営む二郎は、「卵かけご飯専門店」を開くことを決意するが…。山村の人々が繰り広げる、笑って泣ける日々。徳間書店/1,500円。
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「おいしい」とは何か? 真理を知る卵かけご飯。
大切な鶏が遺した卵を食べる主人公。「お椀に落とした卵をよくかき混ぜて、ムーさんの言うように醤油と麺つゆを半々にして味をつけた。(中略)甘い。咀嚼した瞬間、そう思った。これまで、ムーさんにもらったどんなに美味しい卵よりも、ヒカルが命がけで産んでくれた卵は甘く感じたのだ」。命をいただくという意味を強烈に感じるシーン。究極のおいしいとは、こういうことかも。
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髙田 郁
『八朔の雪』の
『八朔の雪』の
とろとろ茶碗蒸し
神田御台所町の料理屋で上方料理を振る舞う澪。大阪と江戸の味の違いに戸惑いながらも、天性の味覚と根性で困難を乗り越えていく。ハルキ文庫/552円。
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この世のものとは思えない、夢みたいな茶碗蒸しって⁉
「男たちは安心したように碗の蓋を取る。柚子の香りがふわっと舞う。艶々(つやつや)と膜を張ったように滑らかな黄の肌。それに海老の赤、銀杏の翡翠(ひすい)色が鮮やかだ。恐る恐る匙を入れて、客は、うっと声を洩らした」。この後の客のコメントが面白い。「とろとろと口の中で溶けちまった。夢に違(ちげ)ぇねぇや、こんな旨いもの、この世にあるわけがねえ」。夢かと思うほどウマい茶碗蒸し、食べたいナァ!
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