Special Contents 私の「思い立った」旅。
ハプニング上等、目的地なんてなくてOK。旅慣れた人ほど、旅程の無い旅を楽しむもの。16人の旅好きに聞いた旅のエピソードの中から、ここでは4人分を抜粋しました。決まり事がなければないほど、旅は面白くなるんです。
大塩あゆ美 料理家
うつわ探しに行ったら色々あり、最終的には料理教室を開くというわらしべ長者トリップ。
思えばいつも人に導かれるまま旅をし、最終的に予想外の場所に到達して旅を終えています。直島で見知らぬおじさんに誘われ、野生のムール貝を採集して食べた珍体験も。先日は民芸店を訪ねに富山へ。そこで紹介されたのが「主人が仕留めた野獣肉を人間国宝の器で食す」というディープなジビエ料理店〈きくち〉。民芸フリークの若手職人が作る郷土菓子店も紹介してもらい、うつわ話に花が咲きました(「ひしきりこ」という伝統菓子が美味!)。最後は富山で注目のワイナリーへ。そこでも意気投合し、「うちで料理教室やる?」という話に。あれ? 私、うつわを買いにきただけなのに……(で、4月に料理教室やります)。ふらふらするほどに福が来る、これぞ「わらしべ長者トリップ」!
profile_おおしお・あゆみ/出張料理の〈あゆみ食堂〉としてイベントなどでケータリングを行う。現在、朝日新聞デジタル&wにて『あゆみ食堂のお弁当』を連載。
藤代冥砂 写真家
辿り着いた先々でキャンプを続けた5日間。甘やかな匂いに満ちた夏の北海道旅行。
10歳の息子と北海道の大雪山へ行った時のこと。1週間くらい、トレッキングしながら縦走する予定だったんですが、息子の体力が持たず断念。1泊だけして下山しました。家へ帰るか迷ったんですが、レンタカーを借りて、海でも山でも湖でも着いた先々でキャンプをしながら進もう、と計画を変更して旅を続けました。洞爺湖畔に泊まったり、蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山に登ったり、公共温泉に入りながらのキャンプ生活。道の駅で、市場価格で売られていたブルーベリーとサクランボをどっさり買い、車を走らせながらひっきりなしにビニール袋に手を突っ込んで、息子と2人、口を紫色に染めながらドライブしました。車中に充満していた果物の匂いと一緒に思い出す、そんな旅の記憶です。
profile_ふじしろ・めいさ/『父と息子、ヒマラヤを旅する』(幻冬舎ibooks)が4月25日発売予定。アップルストア銀座でトークショーも。http://meisafujishiro.com
衿沢世衣子 漫画家
入江を囲む舟の家、レトロで不思議なケーブルカー、そして御朱印を巡る西の旅。
そういえば京都って南の方しか行ったことがないなあとふと思い、日本海側の伊根という町(写真)へ行ってみることにしました。戸建ての下に船着場が設けられている“舟屋”がずらりと並ぶさまは圧巻! 穏やかな湾に守られた漁村の歴史を感じさせてくれました。日本三景の一つ・天橋立へも少し寄り道。丘へ登るケーブルカーに乗り込むと、そこにはオルゴールの音楽がかかっている中をお年寄りたちが行き交っている、なんともいえない不思議な世界が。その後、京都市の智積院(ちしゃくいん)で御朱印をいただき、以来、御朱印を求めて関西へ旅することが多くなりました。集めているのは神仏霊場150ヵ所。今やっと50くらいなので、まだまだ先が長い……! これは一生ものの趣味になりそうです。
profile_えりさわ・せいこ/地図好き女子が主人公の『ちづかマップ』(小学館)で日本地図学会学会賞。『うちのクラスの女子がヤバい』(講談社)が発売されたばかり。
甲斐みのり 文筆家
出張旅行を1日延泊。そこで出会った、Google検索しても見つからない喫茶店。
2月に京都と滋賀の米原へ出張しました。仕事が終わったところで、アシスタントの「このまま米原に泊まってみたい」という言葉に乗っかって帰京を1日遅らせ、翌日、糸切餅の食べ比べをすべく多賀大社へ行ったんです。お多賀さんの門前を巡っていたら「有料P珈琲」という看板を見つけました。駐車場の受付が喫茶店になっていて、入るとストーブにあたっていた2人のおばあちゃんが驚いて、「こんなところ誰もコーヒー飲みに来ない、まずいものしかないよ」と。そこで300円のコーヒーを注文したらちゃんとおいしくて、こんなふうにガイドブックに載っていないお店との出会いや体験こそが旅の醍醐味だなぁとしみじみ。ちなみに、後から検索してもお店の情報は見つかりませんでした。
profile_かい・みのり/『地元パン手帖』(グラフィック社)をはじめ旅の書籍も多い。5月末まで『甲斐みのりの おりて、めぐる、米原の旅』が米原駅で開催中。