Special Contents 古今東西、名作別荘から学ぶ特別な場所の作り方。
生活の拠点である自宅以外の、もうひとつの特別な場所。たとえ豪華でなくとも、叶えられる特別はあるのです。先達が手に入れた名作別荘から、その条件を学びます。本誌で紹介した11軒の中から4軒をここで紹介。
カエデの宮殿 / スティーヴ・ロンデル
絵には描けても現実にはありえないだろうと思うものが、実物大で立っている。そんな「カエデの宮殿」は、米国ワシントン州レッドモンド在住のスティーヴ・ロンデルが息子のためにセルフビルドで建てたツリーハウス。材料は合板。1990年代から20年以上かけて造り続けており、息子の代を越え、もはや孫の遊び場に。誰かを喜ばせたい気持ちが作った特別な場所だ。
ヒアシンスハウス / 立原道造(みちぞう)
マラパルテがカプリ島で石を積んでいた同じ頃、立原道造はわずか5坪の小さな週末住宅を構想して胸躍らせていた。「ヒアシンスハウス・風信子(ひやしんす)荘」と名づけ、50もの試案を描いた。残されたスケッチからは詩人であり建築家だった若き立原の創造する喜びが伝わってくる。思い描く時間そのものが、特別なものであることを教えてくれる。2004年に別所沼公園内で再現版竣工。
室生犀星の軽井沢の別荘
1931年完成。時間をかけて慈しむことで、さらにそこが特別な場所になる手本のような別荘。昭和6(1931)年から30年間、夏のたびに室生犀星は家族とともにここで過ごした。「きりふかき しなののくにに こほろぎの あそぶお庭を 我はつくるも」と短歌にも詠(よ)んだ庭は、苔の緑がまぶしいほどに美しい。この場所で過ごす時を、いかに大事にしていたかが苔から伝わる。
トーベ・ヤンソンの夏の家
1964年完成。不便であることもまた、時にそこを特別な場所にする。「ムーミン」の作者トーベ・ヤンソンが、パートナーのトゥーリッキ・ピエティラと30年近く夏を過ごした別荘は、「電気も水道もない、歩いて1周8分」ほどの小さな島にあった。海辺に立つ1部屋しかない小屋は、精神を解放し、新たな創作に向き合うための場でもあった。