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Special Contents 危険な本屋大賞2016

政治・お色気・サブカル。危険な本を数多く扱う3書店に聞いた、今年一番危なかった本は?

[タコシェ]
何度読み返しても新たな感慨に浸れる本。
漫画誌『ガロ』のアンテナショップとして1995年に開店。作家持ち込みの本などを置くうちに品揃えが広がり、今はサブカルチャー全般を扱うようになった。

店主の中山亜弓さんは2016年、リチャード・マグワイアのグラフィック・ノベル『HERE』の虜になったという。「ニュージャージー州に住む家族の居間の絵が見開きでずっと続きますが、1957・1942・2007と年代は違う。読み進めると同じ空間に、パソコンのウィンドウのような異なった年代の断片が混在し始めます。一つの家族の物語を通して、紀元前から22175年までを辿りますが、どのページからでも読める」。2016年は繰り返し読んでも新たな驚きに満ちた本が多かった。ほかの2冊も見返すたび、新たな感慨が湧くという。

大賞:『HERE』リチャード・マグワイア/著
『HERE』
リチャード・マグワイア/著
「人類にとっての世界の終わりも、地球の歴史の中では小さな一コマに過ぎないと痛感します。約20年前に描いた6ページの雑誌記事を一つの作品に発展させた作家の姿勢や器量にも感動です。一生モノの本と出会えた気がします」。大久保譲訳/国書刊行会/4,000円。



[カストリ書房]
「遊郭=危険」という固定観念を払拭したい。
2015年、遊郭に関する資料の復刻、書籍も発刊する〈カストリ出版〉を創業した渡辺豪さんが、16年9月に書店もオープン。立地は吉原の風俗街の中だ。

趣味が旅行という渡辺さん。街歩きの最中に偶然、足を踏み入れた場所が遊郭跡だった。「なぜここだけ、異質な空気が流れているのか知りたくなって。全国の赤線跡もフィールドワークするようになりました」

遊郭=危険の概念を突き崩したい、とも話す渡辺さん。「暗いとか怖いという印象が強いけど、風俗で働く人にも日常という世界がある。知らないから危険だと思うんです。『昭和エロ本 描き文字コレクション』を“かわいい”と購入する人もいるから、本をきっかけに遊郭にも興味を持ってもらえると嬉しいです」

大賞:『昭和エロ本 描き文字コレクション』橋本慎一/著
『昭和エロ本 描き文字コレクション』
橋本慎一/著
昭和40年代のエロ本を彩ったタイトルを集めた作品集。「2016年で一番売れました。『ご存じですか“性器のオシャレ”』との見出しに苦笑しながら買っていく人も。年月が経っているから、ユーモアにもなるんでしょうね」。カストリ出版/1,800円。



[模索舎]
未知の場所、時代の空気感を伝える一冊。
学生運動活動家の若者たちが「既存の出版ルートに頼らない本屋を」と1970年に創業。今でも社会主義やアナーキズム等の政治・思想系の本を豊富に取り揃え、漫画、サブカルチャーの本やミニコミも取り扱う。

共同運営者の榎本智至さんが最初に推すのが『さいはて紀行』。「温泉地の時間が止まったようなストリップ小屋や、刑務所内の美容室など。ふらっと訪ねて取材してしまう、著者・金原みわさんの胆力にまず驚いて。“珍スポット”の非日常性だけでなく、関係者の人柄も伝わってくる。きっと金原さんが、相手に寄り添って言葉を綴れる人だからです」。ほかにもカウンターカルチャーや社会運動の本を通して「未見の場所や時代の空気に触れられる本が興味深かった」と語る。

大賞:『さいはて紀行』金原みわ/著
『さいはて紀行』
金原みわ/著
キリスト看板総本部など、日常のそばにある“さいはて”への旅を記録する。「私自身がもともと都築響一さんのファンなのですが、その都築さんが巻末の寄稿で“僕にはできないやり方で対象に寄り添うことができる人”と絶賛しています」。シカク出版/1,000円。



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